窓の怪

写真怪談

梁の間の人影

ビルの隙間に渡る二本の梁。その上を、昼の光の中で人ではない形が少しずつ降りてくる。
写真怪談

拭く人を見た

朝の通勤時間、専門学校の校舎前でビルの窓を拭く作業員を一度だけ見上げた。そのガラスの中で、こちらの人々だけが全員、見てはいけない場所を見上げていた。
写真怪談

窓枠の人数

その集会所は、町内会の倉庫と呼んだほうが近かった。古い木造で、畳の部屋がひとつ。折りたたみ椅子を三脚出せば、もう通路がなくなる。外から見ると、出窓だけが妙に立派だった。淡い青に塗られた木枠は剥げ、ガラスは少し曇っていて、中の様子を見ようとすると、いつも自分の顔と室内の暗がりが重なった。町内では、月に一度だけそこで回覧板の仕分けをしていた。使うのは自治会長と、班長が二人。三人入ればいっぱいになるので、次の人は外で待つ。そういう決まりでもないのに、誰も四人目として入ろうとはしなかった。ある年の梅雨前、若い班長がそれを笑った。「狭いだけでしょ」そう言って、彼は先に入っていた三人のあとから戸を開けた。だが片足を上げたところで、ぴたりと止まった。中から冷たい風が出てきたのだという。扇風機もない。窓も閉まっている。なのに、膝から下だけが水に浸かったみたいに冷え、彼は靴を脱ぐ前に足を引っ込めた。室内の三人は、何も感じていなかった。その日、仕分けを終えて外へ出ると、出窓の下のガラス一枚だけが白く曇っていた。内側から息を吹き...
写真怪談

停車位置

閉業したガソリンスタンドの裏窓に、何日も同じ位置に立ち続ける人影があった。誰も入れないはずの場所に見えるそれは、やがて別の窓へ移ってくる。
ウラシリ怪談

十センチの影

「窓は十センチ、レースで四分の一」——その“正しい換気”を守った日から、カーテンの向こうに欠けた人影が立つようになったそうです。
写真怪談

赤い三角の病棟

病院の裏路地で見上げた窓に、赤い三角がひとつ増えた瞬間から、影の形が崩れはじめた。
写真怪談

暗層勤務表

明るい展望フロアの直下で、暗い窓だけが“勤務”を続けている理由を、あなたは見てしまいます。
写真怪談

境界の窓

「乗務員室」の窓に浮かぶ白い文字が、いつから“こちら側”を見返すようになったのか。
写真怪談

角に置かれたまま

たった一つ、荷物棚の「角」にだけ、ぴたりと残された黒いバッグ——それは忘れ物ではなく、次の“反射”を待つ席だった。
写真怪談

蔦壁の結び目

蔦に覆われた外壁と、頭上を縫う電線——毎朝見ていた路地で、空が「欠けはじめる」。
晩酌怪談

網入りガラスの遅い影

休店日の居酒屋、その窓に並ぶ緑の瓶と街灯の反射――映り込みのはずの影だけが、なぜか“遅れて”残った。
写真怪談

住んでいる家

人が住んでいるはずの古い家——けれど、窓の曇りの向こうで「生活」が増えていくのを見てしまったら、あなたは確かめずにいられますか。
写真怪談

空席のベランダ

昼間のベランダに置かれた“空席”は、誰かを待っているのではなく——次の名前を決めている。
写真怪談

地面の下を登校する子どもたち

地面に飲み込まれかけた一階の窓の前を、毎朝子どもたちが通り過ぎる──その窓の前で立ち止まった子を見てから、私は通学路をまっすぐ見られなくなった。
写真怪談

対岸の点呼

対岸の窓が人数を数え始めたとき、足元の水が階段になった。最後のひとつにされる前に、私は段を崩した——。
晩酌怪談

瓶の数え方

毎朝、瓶を数え、同じ三人の足音で時刻を知る——ある朝、一本だけ増えた。数が合った翌日、路地は静かなままだ。
写真怪談

角度だけが追ってくる

無風なのに、アンテナの“角度”だけが私を追ってくる。意味のない受信の先に写っていたものは——。
写真怪談

高層の窓に降りてくるもの

高架下から見上げると、白い高層マンションの窓が並んでいた。二十階あたりの窓に、何かが張りついているのが見えた。人影のように見えるが、その高さからは細部など判別できるはずがない。だが確かに、そいつの目は――真下に立つ自分と焦点を合わせていた。慌てて視線を外し、次に見上げたとき、影はもう二十階にはいなかった。代わりに、一階のガラス扉の内側で、まったく同じ姿勢をしてこちらを見ていた。移動した、のではない。ほんの一瞬で、階の違いそのものが飛ばされてしまったように思えた。その直後、上空で窓がわずかに開いた。二十階の窓から吹くはずの風が、なぜか頬を叩き、湿った吐息の匂いを運んできた。距離も時間も無視して、あの影は確実にここにいる。背筋が粟立ち、足がすくむ。ふと視界の端に動きを感じて振り返った。そこには、いくつもの窓から同時に覗き込む、同じ影が並んでいた。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。