異常な温度

写真怪談

乗る前の白い息

空港行きのバスを待つだけの夕方、乗り場の係員は、気温では説明できない「白さ」に気づいた。
写真怪談

内側に上がる花火

夜空の花火を見上げていた出店の女性。そのころ白いテントでは、誰も見ていない「内側」に、もう一つの花火が上がり始めていた。
ウラシリ怪談

四十度の迎え水

四十度を超えた部屋に残された、乾かない二つの水の輪――亡き妻は、夫を迎えに来たのではなかったのかもしれません。
写真怪談

閉じ傘の息

客が去ったあとの椅子から、匂いだけが消えていく。閉じたパラソルの中では、代わりに四十七人分の「息」が膨らんでいた。
ウラシリ怪談

冷たさの帰る場所

暑い日に配られた、ただの冷たいおしぼり。けれど毎夕一本だけ増えるそれを、亡くなったはずの女性が受け取りに来たそうです。
写真怪談

紙ナプキンの熱

風邪気味の仕事帰り、スタミナ丼を食べたら身体は楽になった。ただ、カウンターの紙ナプキンだけが、代わりに熱を持ちはじめた。
写真怪談

半額の重さ

閉店間際のスーパーで貼られる半額シールは、何を半分にしているのか。
写真怪談

涼味の一口

スーパーの和菓子コーナーで、未開封の甘味だけに残る“ひと口ぶんの曇り”。それは商品ではなく、味そのものを少しずつ減らしていた。
写真怪談

握り返す継ぎ目

遅延した満員電車で、連結部分の手すりだけが、人の手の温度を覚えていた。
写真怪談

窓枠の人数

その集会所は、町内会の倉庫と呼んだほうが近かった。古い木造で、畳の部屋がひとつ。折りたたみ椅子を三脚出せば、もう通路がなくなる。外から見ると、出窓だけが妙に立派だった。淡い青に塗られた木枠は剥げ、ガラスは少し曇っていて、中の様子を見ようとすると、いつも自分の顔と室内の暗がりが重なった。町内では、月に一度だけそこで回覧板の仕分けをしていた。使うのは自治会長と、班長が二人。三人入ればいっぱいになるので、次の人は外で待つ。そういう決まりでもないのに、誰も四人目として入ろうとはしなかった。ある年の梅雨前、若い班長がそれを笑った。「狭いだけでしょ」そう言って、彼は先に入っていた三人のあとから戸を開けた。だが片足を上げたところで、ぴたりと止まった。中から冷たい風が出てきたのだという。扇風機もない。窓も閉まっている。なのに、膝から下だけが水に浸かったみたいに冷え、彼は靴を脱ぐ前に足を引っ込めた。室内の三人は、何も感じていなかった。その日、仕分けを終えて外へ出ると、出窓の下のガラス一枚だけが白く曇っていた。内側から息を吹き...
写真怪談

黒壁のぬるさ

自販機の冷たい光に挟まれた黒い壁だけが、夜ごとに人肌のぬるさを帯びていく――。
写真怪談

下から乾く階段

夜明け前、誰も使わない外階段だけが、下から一段ずつ乾いていく。
晩酌怪談

残機

深夜の晩酌と古いシューティングゲーム。その残機表示が、いつからかグラスの氷と同じ数で動くようになった。
ウラシリ怪談

熱を売る自販機

寒いのに行列ができる“昭和の自販機”――みそ汁の湯気が、上へ昇らない日があったそうです。
ウラシリ怪談

六分おきの潮

吹雪の夜、避難所の非常口から“潮”が六分おきに入ってきたそうです…
写真怪談

足跡が呼吸する

国道沿いの歩道に、一直線の“狐の足跡”が残っていた――ただし、跡の底だけが妙に生ぬるく、きらきら光っていた。
ウラシリ怪談

灯りのないツリー

熱源のないツリーが燃えた夜…翌朝の庭には十一個だけ飾りが戻っていたそうです…
ウラシリ怪談

無音の発酵

サイバー攻撃のあと、被害を受けたビール工場では、機械の音がどこか違って聞こえるようになったといいます…