地下一席

ウラシリ怪談

欧州のある男子球技リーグには、優勝クラブに大きな銀の皿が渡されるそうです。縁には、何十年も前から歴代王者の名が細く刻まれ、運ぶ時は二人がかりになるほど重い品だったといいます。ところが昨年十一月、その皿が事務所からなくなりました。扉は施錠されたままで、棚の上には丸い埃の跡だけが残っていたそうです。

年が明け、捜索先のひとつから銀の延べたような塊が見つかった時、関係者の多くは、もう溶かされたのだろうと考えたそうです。代わりの品の手配まで進みました。ただ、建物の地下保管庫を任されていた用具係だけは、その話をどうにも信じきれなかったといいます。皿が消えた週から毎週月曜の朝だけ、最下段の床に、濡れた円い跡が現れるようになったからです。

円はいつも同じ大きさで、外周だけがくっきり濃く、内側には五本ずつ平行な曇りが残っていたそうです。ちょうど、濡れた手で縁を持ち上げ、いったん置いてから、また持ち直したような跡でした。保管庫は換気のため乾いていて、水が落ちる場所ではありません。それでも跡は昼には消え、次の月曜にはまた現れたそうです。

四か月目の終わり、警察が地下をあらためる前の夜のことです。用具係は、閉館後の階段の下から、乾いた音を一つ聞いたといいます。拍手に似ていたとも、樹脂の球が床を打って止まる音に似ていたともいわれています。保管庫を開けると、冬の横断幕と清掃道具のあいだに、失くなったはずの銀の皿が、最初からそこに立ててあったみたいに寄りかかっていたそうです。埃の切れ目はなく、壁だけが皿の輪郭のぶんだけ白く乾いていたといいます。

見つかった皿は、その後、証拠として持っていかれました。ですが運び出す前に裏面を拭いた者が、妙なものを見たそうです。歴代王者の刻印が並ぶすぐ内側に、正式な書体ではない浅い傷が一行だけ増えていたのです。人名でもクラブ名でもありませんでした。そこには、刻印の列に紛れるように、
「次回も地下」
とだけあったそうです。

代替品の注文は取り消され、皿は戻ったことになっています。それでも保管庫の最下段には、今も何も置かれていないそうです。月曜の朝になると、誰かがそこへ重いものをいったん下ろし、持ち上げて去ったあとのような円い湿りだけが残るからです。優勝のたびに、それは少しずつ濃くなっているのだとか……そんな話を聞きました。

この怪談は、以下の記事をきっかけに生成されたフィクションです。

Trophy turns up in German team’s own basement after being reported stolen

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