雨の日だけ、あの電柱の根元に四つの袋が並ぶ。
場所は病院とカフェの看板が詰まった、都心の細い歩道だった。可燃ごみの日でもない。資源回収の日でもない。けれど朝の九時前には、白い半透明の袋がきっちり四つ、電柱を囲むように置かれている。
近くの清掃員は、最初それを近隣ビルの出し間違いだと思った。袋には市販のラベルが貼られていて、いちばん手前のものだけ「45ℓ」と青く印刷されていた。中身は紙くずや弁当殻に見える。雨粒で表面が濡れ、白いビニールが妙に薄く透けていた。
拾い上げようとしたとき、袋が温かかった。
生ごみが腐って発熱しているのとは違う。人の脇の下に手を差し込んだような、湿った体温だった。清掃員は思わず手を離した。袋は地面に落ちなかった。ほんの一瞬だけ、持ち上げた高さに留まり、遅れてぐにゃりと歩道へ沈んだ。
その拍子に、袋の内側から何かが貼りついた。
ビニール越しに、掌の形だった。指は五本ある。ただ、どの指も短く、爪のあたりが平たく潰れている。助けを求めるような押し方ではない。中から外の雨を確かめるように、ゆっくり、ぺたり、と触れていた。
清掃員は管理会社に連絡した。ビルの人間も、皮膚科の受付も、カフェの店員も、誰も出した覚えがないと言った。防犯カメラにも、袋を置く人物は映っていなかった。ただ、午前四時二十二分になると、画面の端で電柱の影だけが少し太り、その根元に白いものが一つずつ増えていく。
翌週、袋は五つになった。
手前の袋のラベルは「45ℓ」のままだったが、青い数字の下に、小さな黒い点が三つ浮いていた。印刷の汚れかと思って近づくと、点はまばたきをした。清掃員が息を呑むと、袋の中の紙くずが一斉に沈み、代わりに肌色のものがゆっくり表面へ寄ってきた。
それは皮膚だった。
腕でも顔でもない。人から剥がれた場所の分からない皮膚が、何枚も重なっている。白くふやけたもの、赤くただれたもの、ほくろのあるもの、産毛の残るもの。それらが雨水を吸った紙みたいに折り畳まれ、袋の内側で呼吸していた。
皮膚科の看板を見上げると、「しみ」「しわ」「皮膚科」の文字だけが、雨で濡れたように濃くなっていた。ほかの文字は乾いているのに、その三つだけが水を含み、垂れる寸前の皮膚のように少したるんでいた。
その日から、通りの人が何人か「手の甲が軽い」と言い出した。ひどい痛みはない。ただ、雨に当たったあと、皮膚のいちばん外側だけが薄く浮く。めくっても血は出ない。代わりに、電柱の根元の袋が少し膨らむ。
清掃員はもう触らなくなった。
回収業者が来ても、その袋だけは残される。持ち上げようとすると作業員が決まって手を引っ込めるからだ。理由を聞くと、皆同じことを言う。
「袋のほうが、先に握ってきた」
最後に数えたとき、袋は四つに戻っていた。
だが手前の袋だけ、以前よりずっと大きかった。45リットル用のはずなのに、地面との接地面が広がり、歩道の黒いアスファルトに白い皺を伸ばしている。雨水が流れても、その皺のあいだだけ乾かない。
近くを通ると、袋の中からかすかに音がする。
こすれる音だ。紙でもビニールでもない。誰かが、脱いだばかりの皮膚を内側から畳み直している音に似ている。
電柱の根元には今も、誰のものでもない白い袋が置かれている。
ラベルには「45ℓ」とある。
けれど、近所の人はもう誰も、あれをリットルとは読まない。
四十五人分。
そう呼ぶ者だけが、雨の日にあの歩道を避ける。
この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。


