土地と風習

写真怪談

迎春の席に座るもの

その模様は、「並んで座る人たち」という意味だと店主は言った──正月飾りを載せた年の暮れ、その言葉の意味を、僕は知ることになる。
写真怪談

大開運の木肌

街路樹の名札に紛れて、ひとつだけ黄色い「大開運」のお守りが括りつけられた木がある——その木肌に刻まれていくものを、僕はなるべく見ないようにしている。
写真怪談

空いている車線を走ってはいけない

なぜか市内行きの「歩道寄りの車線」だけ、どれだけ混んでいても一本分まるごと誰も並ばない。理由を先輩に教えてもらう前に、その車線を歩いてくる“何か”を見てしまった。
写真怪談

山門の真ん中を歩くな

秋になると、誰も寺の山門の真ん中をくぐらない――分厚い銀杏の落ち葉の布団の下には、今もひとり分の重さが眠っているからだという。
写真怪談

片付けてはいけない置き場

散らかり放題の資材置き場を片付け始めた新人は、何度片付けても元通りになる「裏の山」と、そこに眠るはずのない“形”と向き合うことになる──。
写真怪談

夕暮れに腕を上げる木

夕焼け空を背に「万歳」する木は、境界を守る目印のはずだった──腕の数さえ数えなければ。
写真怪談

緑の網の下で眠るもの

住宅街の片隅、いつもゴミがひとつも置かれない緑の網と、四本のペットボトルだけが並ぶ集積所があった──その数が「五本」になった日から、私は遠回りをするようになった。
写真怪談

根の帳面(ねのちょうめん)

割れた塀の“中”は、夜になると数を数える——黄葉の枚数と人の数が揃った朝、町は静かにひとりぶん軽くなる。
写真怪談

帰り火の外灯

夕暮れ前から点る、庭の皿灯。傘に映った“顔”は、家の中ではなく、外のどこかへ帰ろうとしていた——。
写真怪談

地脈の指音(しおん)

掘っても掘っても何も出ないのに、音だけが続いた。翌朝、音の中心が移った場所に立つと、足の裏が……。
写真怪談

分別できないもの

この町では、赤は怒り、緑は後悔、青は声──感情も分別する決まりだという。間違えると、放送で名指しされる。ある朝、私は“冷めていない”ものを捨ててしまった。
写真怪談

井の字に戻る水

雨上がりの夜、基礎だけの現場で水が静かにたまっていた。翌朝には消えるはずの“形”が、その場にだけ残った気がする。
晩酌怪談

縄暖簾(なわのれん)の五番目

縄暖簾が一本増える夜、テーブルの空席は必ず誰かで満ちる――そして、帰るときは髪を一本置いていけという。
写真怪談

立入禁止の遷し守(うつしもり)

安全担当だった先輩が教えてくれた。「うちの現場に一本だけ、廃棄できない看板がある。撤去日に必ず“次の工区”へ手配されるやつだ」理由は経費でも再利用でもない。その看板は、貼り出した瞬間から周囲の“境界”を吸い集める。関係者とそれ以外、内と外、許可と不許可——人が毎秒無意識に引いている線が、反射材の網目に絡みとられてゆく。日が暮れると、区画は不自然なまでに“区切れて”しまう。人同士の会話がところどころで途切れ、誰も隣の作業と混ざらなくなる。ミスが起きにくい反面、そこにいたはずの誰かの話も急に続きが思い出せなくなる。撤去のたび、試しにその看板を置いていったことがあったという。翌日から空き地なのに、フェンスがなくても人が“入らない”。近道のはずが、通勤客は必ず遠回りを選ぶ。重機もトラックも、誘導員の合図を受け取り損ねたように、目に見えない線でつまずく。工事は終わっているのに、場所だけが「作業中」をやめない——まるで注意そのものが跡地に固着してしまったみたいに。だから看板は移される。境界を持ち運ぶ容器として、“区切り...
写真怪談

消えた担ぎ手

夏祭りの熱気に包まれた商店街を、神輿が揺れながら進んでいた。肩を寄せ合い、掛け声を響かせる人々。その群れの中に、一人だけ顔の見えない男が混じっていた。背中には「護」の字が染め抜かれた法被。だがその字は他の布より黒く沈んで、まるで墨がまだ乾いていないかのように滲んでいた。担ぎ手たちは互いに肩を組みながら進んでいたのに、その男の隣だけは不自然な隙間が空き、誰の肩にも触れていなかった。それでも神輿は揺れに合わせて不気味に傾く。担ぎ手の数に合わないほどの重さを、まるで「何か」が押し付けているようだった。やがて交差点に差し掛かると、群衆の中から「あっ」と小さな悲鳴が洩れた。振り返った者たちの視線の先に、「護」の字の法被はもうなかった。ただ、地面に濡れたような跡が残り、それを避けるように人々は足を速めた。祭囃子はそのまま続いたが、誰も声を掛けず、誰も確かめなかった。ただ翌年の祭りでも、同じ場所で必ず神輿は傾き、必ず担ぎ手の一人がその夜、行方不明になるのだという。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクション...
写真怪談

喰声の鯱

この街に残る古い瓦屋根には、必ず黒い鯱しゃちほこが据えられている。それは「火除け」と呼ばれてきたが、本当は——人を喰らわせるためのものだった。江戸の頃、度重なる火事で町は焼け落ち、住民たちは「火の神」を鎮めようと生贄を差し出した。選ばれた者は屋根の鯱に向かって立たされ、その声を一滴残らず吸い尽くされるのだという。声を奪われた者は、呻き声すら出せぬまま干からび、やがて鯱の口に呑み込まれた。いまもその記憶は消えていない。夜更け、通りを歩くと鯱の口から赤黒い滴が落ちることがある。近寄れば、それは「声の残滓」であった。舌のような塊が痙攣しながら蠢き、血の泡を弾けさせて消えてゆく。それを見てしまった者は、間違いなく次の贄となる。足元から黒水が這い上がり、喉に絡みつき、内側から声を引き裂くように奪い去る。やがて悲鳴すら出ないまま目玉が白濁し、全身が萎びていく。翌朝、人影のない道に立って見上げれば、鯱の鱗に赤黒い染みが一つ増えている。それが消えるまで、数日は雨が降らないのだという。町の古老は今も言う。「鯱の口を見てはいか...
写真怪談

苔むす隙間から覗くもの

庭の隅に積み上げられた古いブロック。雨に打たれ、苔に覆われ、誰も気にも留めなくなったその塊を、ある夜ふと見てしまった。――苔の奥で、何かが瞬いた。まるで目のように、じっとこちらを窺っていたのだ。翌日、確かめようと近づいてみると、ブロックの隙間から湿った空気が吐き出されるのを感じた。耳を近づけると、小さな声が重なり合って囁いていた。「……重い……暗い……冷たい……」昔、この家の前にあった古井戸を塞ぐために使ったブロックだと祖父は言った。その井戸で、子供が一人消えたことがあるとも。誰も見ていないはずのその瞬間を、苔の奥の「目」は今も繰り返し眺めているのだろう。夜、また覗いてしまった。苔がゆっくり動き、隙間から伸びてきたのは細い手。土色の指先が、静かにこちらを探っていた。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。
ウラシリ怪談

影を映す田の板

田んぼに立てられた縦型のソーラーパネルは、昼はただ静かに陽を受けていたそうです。しかし夜になると、黒い板が水面に影を落とし、その影が人の姿のように揺れたといいます……。農作業を終えた者がふと振り返ると、パネルの向きがわずかに変わっていたそうです。整然と並ぶはずの列の一部が、誰かを見ているかのように傾いていたといいます。翌朝、水田を覗き込むと、自分の影に寄り添うもう一つの輪郭が映っていたそうです。だが実際にはそこに誰も立ってはいなかった……記録はそこで途絶えているそうです。この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。田植え期、栃木の水田に現れた珍風景 垂直ソーラーパネルで朝夕発電