青いシートだけが、いつも乾いていた。
山の手前にある古い借家の裏で、壊れた洗濯機や乾燥機が何台も積まれている場所があった。誰が置いたのか分からない。白い本体は泥で汚れ、排水ホースは地面を這い、葉の茂った枝がふたの上まで垂れていた。奥には丸い口を開けた乾燥機があり、その穴だけが、夕方になると底のない井戸みたいに黒く見えた。
近所の人はそこを「置き場」と呼んでいた。ごみ置き場ではない。捨ててあるのに、なぜか誰も回収を頼まない。春も夏も、同じ並びのまま、白い箱だけが少しずつ森に沈んでいく。
ただ、雨が降った翌朝でも、中央にかぶせてある青いシートだけは濡れていなかった。上に置かれたコードも、乾いたまま巻かれている。周りの土は黒く湿り、洗濯機の足元には苔がつくのに、その青い部分だけ、まるで屋内に置かれていたみたいに粉っぽかった。
管理を頼まれた男が、不法投棄として撤去することになった。下見に行ったのは、夕方のまだ明るい時間だった。彼は台数を数えるつもりで、手前の洗濯機から順にスマホへメモした。
六台のはずだった。
ところが、奥の乾燥機の黒い丸窓を数に入れると、どうしても七台になる。中に何かがあるわけではない。正面の丸い穴が、もう一台分の口として、こちらを向いているだけだった。
男は気のせいにして、手前の洗濯機に貼られた古い注意書きを読んだ。文字は泥でほとんど消えていたが、「すすぎ」という表示だけがやけにはっきり残っていた。別の機械にも、また別の機械にも、同じ場所に「すすぎ」だけが残っている。
そのとき、土の中の排水ホースが、ぴくりと動いた。
蛇かと思って男は足を引いた。ホースは洗濯機から外れ、地面に転がっているだけだった。電源も水道もつながっていない。それなのに、白い蛇腹の中を、何かが奥へ吸い込まれるように細く震えた。
水の音がした。
流れる音ではない。洗濯槽の底で、水が衣類を返すときの、低く丸い音だった。ちゃぷ、ちゃぷ、ではなく、もっと重い。湿った布団を押し沈めるような音が、何台もの白い箱の中から少しずつずれて聞こえてくる。
男が手前のふたを開けると、中は空だった。錆びた槽の底に、乾いた落ち葉が三枚だけ入っていた。だが、その葉はただ落ちたのではない。大きい葉、小さい葉、虫に食われた葉が、きれいに折り重なり、洗濯物を畳んだみたいに中央へ寄せられていた。
ふたを閉めた瞬間、奥の乾燥機の丸窓が白く曇った。
内側から息を吹きかけたような曇りだった。男は近づかなかった。暗い穴の縁にだけ、洗剤の泡みたいな白い粒が浮いていた。泡は膨らまず、ひとつずつ黒い穴の奥へ沈んでいく。
翌日、業者が来たとき、洗濯機は五台しかなかった。
倒れた跡も、引きずった跡もない。ただ、一台分の四角い地面だけが残っていた。泥も枯葉も苔もなく、そこだけ新品の床のように白く乾いている。男は前日に撮ったメモを見返したが、写真は撮っていなかった。記録にあるのは「洗濯機六、乾燥機一」の文字だけだった。
撤去は中止になった。
その日の夜から、近所の家で洗濯物が乾かなくなった。晴れていても、乾燥機にかけても、シャツの袖口だけが冷たい。タオルの端に細かい土がつく。洗濯機の糸くずフィルターには、見覚えのない葉の欠片が溜まるようになった。
男の家でも同じことが起きた。
洗濯機を開けると、槽の底に青いビニールの切れ端が一枚貼りついていた。あの置き場にかぶさっていたシートと同じ、粉っぽい青だった。捨てても、翌朝にはまた入っている。水を使っていないのに、洗濯槽の内側だけが白く曇り、「すすぎ」のランプが淡く点いている。
男はそれ以来、洗濯を夜にしなくなった。
それでも、深夜になると洗面所から低い音がするという。水は出ていない。電源も切ってある。なのに、槽の奥で何かがゆっくり回る。布の音ではない。葉と泥と、古い家電の中に長く溜まっていた湿った空気が、順番に洗い直されている音だ。
あの置き場は今も残っている。
白い洗濯機は、もう何台あるのか分からない。数えようとすると、奥の丸い口が一つ増える。青いシートは乾いたまま、上に置かれたコードも動かない。
ただ、夕方に近くを通ると、足元の土が妙に白くなっていることがある。
洗剤ではない。
そこだけ、何かを置いて、長い時間すすいだ跡のように見える。
この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。


