写真怪談

写真怪談

階段の番号

何度上っても、段数が合わない階段がある。
晩酌怪談

麦穂の影、揺れる晩酌

カウンター越しに揺れる麦穂。その影が、ビールの泡よりも長く残っていた――。
写真怪談

下から呼ぶ音

夜の公園、濡れたマンホールの下から聞こえる“呼吸”。 それは、誰のものだったのだろう。
写真怪談

ISO 0 ― 光が抜け落ちるカメラ

ISO 0の設定で切られたシャッターは、光ではなく「記憶」を露光する。
晩酌怪談

イカ刺しと“おやじ生き”

「おやじ生きって、なんですか?」 その問いに、女将はゆっくりと笑った。 ――息を入れる料理よ、と。
晩酌怪談

ボトルの底から聞こえる声

深夜の店内で、瓶たちは静かに並んでいた。 けれど、その夜だけは、光の色が違っていた。
写真怪談

階段の上の鳩

夕暮れのアパートで、鳩はいつも誰かの部屋の前に立っている。 その視線の意味を知るのは、選ばれた者だけだ。
晩酌怪談

最後の一個

祭りの帰り、ふと立ち寄った居酒屋。 皿の上に残った「最後の一個」は、誰が食べたのか。
写真怪談

白い花の辻

早朝に白い彼岸花を撮影した。ところが写真を確認すると、そこには写るはずのないものが映っていて…
写真怪談

彼岸花の下で待つひと

川沿いに群れ咲く赤い花を見たとき、胸の奥に忘れていた記憶がざわりと動いた…。
写真怪談

高層の窓に降りてくるもの

高架下から見上げると、白い高層マンションの窓が並んでいた。二十階あたりの窓に、何かが張りついているのが見えた。人影のように見えるが、その高さからは細部など判別できるはずがない。だが確かに、そいつの目は――真下に立つ自分と焦点を合わせていた。慌てて視線を外し、次に見上げたとき、影はもう二十階にはいなかった。代わりに、一階のガラス扉の内側で、まったく同じ姿勢をしてこちらを見ていた。移動した、のではない。ほんの一瞬で、階の違いそのものが飛ばされてしまったように思えた。その直後、上空で窓がわずかに開いた。二十階の窓から吹くはずの風が、なぜか頬を叩き、湿った吐息の匂いを運んできた。距離も時間も無視して、あの影は確実にここにいる。背筋が粟立ち、足がすくむ。ふと視界の端に動きを感じて振り返った。そこには、いくつもの窓から同時に覗き込む、同じ影が並んでいた。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。
写真怪談

狐面の飲み方

翌年の夏祭り、私はまたあの通りに足を踏み入れた。雑踏の中に、赤い狐面を被った者がいた。髪は短く、面も顔の上半分を覆うだけの簡素なもの。去年の女とは明らかに別人だった。だが、私には分かってしまった。――あの目が、去年と同じまばたきをしていたからだ。その人物は、手に持ったペットボトルを口元へと運んだ。口は面に覆われていないのだから、何の不自然もないはずだった。けれど、確かに聞こえた。ゴク、ゴク、と液体が流れ込む音が――面の目の穴から響いていたのだ。喉が鳴るたびに、眼窩の奥で何かが蠢き、まるで「人間の飲み方」を真似しているようだった。私は息を呑んだ。あれは人ではなく、人を演じる何かだ。来年、奴らはもっと上手に模倣するだろう。私たちと同じように歩き、笑い、食べ、やがて――区別がつかなくなる。その時、瞬きをするのは、もう「人間の目」だけではないのだ。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。
写真怪談

黒雲の下、橋の向こうで待つもの

夜祭の最終日。送り火を控えた河原はすでに立入禁止となり、橋の入り口には監視員たちが列を成して立っていた。「ここから先は入れません」通りかかる人々にそう告げる声が夜気に溶けていく。だが、河原には誰一人いないはずだった。ふと、一人の監視員が違和感を覚える。仲間の足元に並ぶ影の列――そこには人数分より一つ多い影が混じっていたのだ。灯りの位置からすれば、そんなはずはない。「……誰だ?」振り返っても、人影はなかった。だが視線を戻すと、影はすでに形を変え、立入禁止の先へと這い進んでいく。まるで黒い獣が河原に導かれるように。送り火の火がともる前の静寂に、低い唸り声が重なった。水面は人影もないのにざわり、と揺れ、泡立っていた。「入ってはいないはずだ……」そう呟いた瞬間、橋の向こうに立っていた赤い法被の男の姿が、ふっと消えた。――まるで最初から存在しなかったかのように。送り火の煙に誘われるのは、迎えられるべき魂だけではない。河原には今もなお、一つ多い影が紛れ込むのだという。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィク...
写真怪談

棚に並ぶ記憶

都内のビルの一角、北海道のアンテナショップに入ったときのことだった。ふと目に留まったのは、棚一面に並ぶ袋麺やレトルト食品。そのどれもが、遠い昔を呼び覚ます匂いを放っていた。学生時代、ひとり暮らしを始めてすぐの頃。金もなく、よく食べていたのは、湯切りのお湯をスープにする独特なスタイルの“あのカップ焼きそば”だった。深夜の台所で湯を沸かす音と、アパートの古い壁を伝うような人の気配。そのとき隣室に住んでいた青年が、不意に姿を消したことを、今も鮮やかに思い出す。警察が来て、部屋は封鎖された。理由は聞かされなかった。けれど僕は知っていた。あの夜、壁越しに聞いたすすり泣く声を。麺をすする音に混じって聞こえてきた、誰かの嗚咽を。記憶はそこまでのはずだった。だが目の前の棚に視線を戻すと、あり得ないことが起きていた。商品パッケージの印刷された人物の笑顔が、わずかに揺らめいている。ほんの一瞬、袋の透明窓から覗いたのは、見覚えのある隣人の横顔だった。湯気に濡れた額、そして歪んだ口元。耳元で音がする。袋を揺らすような、乾いた麺が砕...
写真怪談

鉄塔に棲むもの

その鉄塔は、町外れの空き地に屹立していた。夕暮れになると、真っ黒な影となって空を切り裂き、風が吹くたびに高圧線が低く唸る。──あそこには「誰か」がいる。昔から子どもたちの間ではそう囁かれていた。ある若い作業員が、夜間点検のために鉄塔に登ったという。仲間に無線で「今から昇る」と告げ、ゆっくりと階段を上がっていった。だが数分後、彼の声は奇妙に変わった。「……うしろに……」無線が途切れ、雑音だけが流れた。すぐに捜索が始まったが、鉄塔の上にも、下にも、彼の姿はなかった。制服も、ヘルメットも、何ひとつ残されていなかった。それからだ。夜になると、この鉄塔から「降りられない足音」が聞こえるようになった。金属の階段を踏む硬い音が、ずっと、ずっと、同じ段を上下するように続くのだ。誰が聞いても、登りきることも、降りきることもない。ある晩、好奇心からそれを確かめに行った男がいた。彼は真下で耳を澄ませ、確かに金属音を聞いたという。しかし──音が近づいてくるのに、姿はなかった。見上げれば、鉄骨の間から覗き込む「影」があった。真っ黒な...
写真怪談

途切れぬ非常階段

女子大の裏にある非常階段は、夜になると時折「おかしな音」を立てるという。カン、カン、と靴の踵のような音が金属を叩く。だが見上げても誰もいない。ある学生が、深夜に研究室から戻る途中、その階段を見上げて凍りついた。最上段に立つ人影が、上の階へと上がっていく。だが、その建物は三階建てで、そこに「上の階」など存在しない。それでも影は、鉄柵の先にあるはずのない段を、踏みしめるように昇り続けていた。恐怖に駆られた学生は逃げ出したが、数日後、彼女は行方不明になった。残されたスマホには、最後に撮影した写真が残っていた。それは暗闇の非常階段を写した一枚。ただしその画像には、階段の上方に「もう一つの階層」が写り込んでおり、そこに背を向けて昇っていく女の姿が鮮明に残されていた。以来、非常階段の踊り場から夜空を見上げると、時折、存在しない「四階」「五階」へと続く階段が闇に浮かび上がるのだという。そこに足を踏み入れてしまった者は、二度と地上に戻らない。まるで、この世とあの世を繋ぐ階段のように。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成...
晩酌怪談

赤提灯の下で笑う影

夜の繁華街を歩いていると、赤提灯の列が異様に目を引いた。その灯りは温かくも見えるが、どこか血のように濃く、近づくほどに胸がざわつく。ある居酒屋の前、提灯の影に妙なものが映っていた。通り過ぎる人々の姿ではない。痩せた腕のような影が、提灯から伸び、通りを行く人の背中を撫でる。気づかれた瞬間、その影はすっと引っ込み、再び紙の灯りに吸い込まれていった。奇妙なのは、通りを歩く客の笑い声だった。影に触れられた者は、必ず足を止め、目の焦点が合わないまま笑い出すのだ。その笑いは、酔いではなく、苦しみに似た響きを持っていた。地元の人によれば、この店の赤提灯は昔から替えてもすぐに焼け焦げる跡が出るという。その跡の形は、いつも「手の指」に似ているそうだ。——赤提灯の下で、誰かが笑っている。だがそれは、客でも店員でもない。灯りそのものが、影を使って人をからかっているのだ。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。(c)TRUNK-STUDIO - 画像素材 PIXTA -
写真怪談

立入禁止の遷し守(うつしもり)

安全担当だった先輩が教えてくれた。「うちの現場に一本だけ、廃棄できない看板がある。撤去日に必ず“次の工区”へ手配されるやつだ」理由は経費でも再利用でもない。その看板は、貼り出した瞬間から周囲の“境界”を吸い集める。関係者とそれ以外、内と外、許可と不許可——人が毎秒無意識に引いている線が、反射材の網目に絡みとられてゆく。日が暮れると、区画は不自然なまでに“区切れて”しまう。人同士の会話がところどころで途切れ、誰も隣の作業と混ざらなくなる。ミスが起きにくい反面、そこにいたはずの誰かの話も急に続きが思い出せなくなる。撤去のたび、試しにその看板を置いていったことがあったという。翌日から空き地なのに、フェンスがなくても人が“入らない”。近道のはずが、通勤客は必ず遠回りを選ぶ。重機もトラックも、誘導員の合図を受け取り損ねたように、目に見えない線でつまずく。工事は終わっているのに、場所だけが「作業中」をやめない——まるで注意そのものが跡地に固着してしまったみたいに。だから看板は移される。境界を持ち運ぶ容器として、“区切り...