写真怪談

写真怪談

ガラスの外にいる

駅ビル地下の階段で、事故があったという話を聞いた。だが警備記録にも報道にも何も残っていない。ただ、監視カメラの記録だけが毎月更新されていない。なぜなら、その地点だけ、映像に異常が出るのだという。ガラス壁の向こうにいるはずの人物が、時折“中からこちらを見ている”。階段の下で人が動くと、ガラスの中の人影が数秒遅れて、まるで鏡像のように追いかけてくる。しかしその動きは一致しない。誰も登っていないのに、影だけが駆け上がってくることもある。あるカメラマンがその場所で撮った一枚に、妙なものが写った。階段を上がる姿がガラスに写っている。しかし、その位置に人影はいなかったという。構造的にも、反射角的にも、その像は存在し得なかった。その写真を持ち帰った編集者が、後日こう言った。「これさ、右足がね、接地してないんだよ。地面の上に“貼り付いてる”みたいに見える」その三日後、その編集者は意識不明で発見された。地下鉄構内のガラスに激突していたらしい。頭蓋骨が“内側から”割れていたと報告されたが、それ以上のことは何も分かっていない。い...
写真怪談

フックは引き返さない

夜の車庫は、いつも音がない。舗装の隙間に草が生え、壁には錆が広がり、それでも点検記録だけはきちんと並んでいる。どれだけ年月が過ぎても、使われていない車両のエンジンには、毎月一度、点検の朱印が押されていた。その車両もそうだった。型式の古いレッカー車。既に部品も揃わず、車検も切れているのに、なぜか廃車にされず、隅に押し込められたままになっていた。誰からともなく、こう言われていた。「あれの前に立つな」「鉄のフックには触るな」冗談のようでいて、妙に誰も否定しなかった。ある日、夜勤明けの整備士がそのフックのそばで動けなくなった。腰を抜かした状態で発見され、搬送先でただ一言、「巻き取られてた」とだけ呟いたという。本来なら、ウインチの操作は運転席側の制御盤から行う。だがその車両だけは、エンジンを切った状態でも、深夜にウインチが回るという。ガチ、ガチ、という音がして、繋がれていないワイヤーがじわじわと巻き戻される。誰もいないのに、誰かが何かを引き戻しているような音。そして翌朝、フックの下の金属板には、必ず泥の跡が残っていた...