写真怪談

晩酌怪談

夜勘定

昼の一杯のはずだったのに、伝票にはまだ来ていないはずの「今夜の自分」の会計が先に印字されていた。
写真怪談

祈影

昼の教会で見つけたのは、影ではなく“祈った跡”でした。
写真怪談

隙間の顔

人が入れる幅もない、建物裏の配管の隙間。けれど夕方だけ、そこに“顔から先に来る何か”がいる。
写真怪談

継ぎ輪

昼の路地で、電気の唸りが二拍だけ止むたび、外壁の配管に“ありえない継ぎ目”がひとつずつ増えていく。
写真怪談

八羽目が降りない

花の終わった桜の隙間に立つ古いアンテナには、毎年この時季だけ、声を出さない雀が増えていく。
写真怪談

七階の水位線

都心の水路を見下ろす七階の窓に、地上にはないはずの“水位線”が現れはじめた。
写真怪談

二番待ち

終バスを待つ細い停留所で、なぜか「二番目」に立った人だけが、毎晩きれいに消えていくのです。
写真怪談

電線の赤い花びら

満開の桜の下、昼の路線バスが通るたび、一本の電線だけが真っ赤な花びらで太っていく。
写真怪談

節鳴り

立ち入りが許されたのは一日だけ。外から見続けていた蔦の木に近づいた人だけが、整備の手が止まった本当の理由を知ります。
写真怪談

還り結び

整備されたはずの緑地で、通り過ぎたあとにだけ境界が結び直されていく――開放日の細道に残った、桃色の痕跡。
写真怪談

送風跡

電源を落としたはずの弱冷房車の屋根だけが、夜ごと少しずつ冷えた跡を伸ばしていく。
写真怪談

踊り場の白線

夜の白い階段には、見えている十一段のほかに、どうしても数に入らない「余った一段」がある。踏むたびに失くすのは、足場ではなく時間のほうだった。
写真怪談

検知枠

防犯アプリが二重に送ってくる通知には、いつも“一人ぶん足りない”何かが写っていました。
写真怪談

白幕

工事現場の白い幕が、人の通行を数秒遅れて真似しはじめた路地。布の向こうには、誰も通れないはずの幅しかなかった。
写真怪談

手すりの体温

青空の真下にある住宅街の階段で、白い手すりの裏側だけが、誰かの体温を覚えていた。
写真怪談

替皮

境内の片隅に置かれた、片目の欠けた石の蛙と二匹の亀。冬の最初に供えられる柚子には、寺の者が決して早く片づけない理由がありました。
写真怪談

口移し

苺餡と芋餡のたい焼きを並べた夜だけ、ショーケースの内側には、向かい合った吐息のような曇りが二つ残る。
写真怪談

口火

最後のひとりが喫煙所を出たあとも、一本ぶんだけ煙が帰ってこない夜がある。