ウラシリ怪談 鉄道ホームに潜む余白
とある地下鉄の駅で、刃物を持った男が乗客を切りつける事件がありました。利用客が逃げ惑い、構内は騒然となり、数人が負傷したと報じられています。数日後には落ち着きを取り戻し、いつもの朝夕の混雑が戻ったそうです。けれども、その頃から妙な報告が増えたといいます。終電後に点検をしていた駅員が、ホームの壁に張り付くような黒い影を見たそうです。振り返っても誰もいない……監視映像には人影は映っておらず、ただセンサーだけが一瞬、人型の反応を示していたと記録されています。やがて、利用客のあいだでも囁かれるようになりました。「電車を待っているとき、視界の端を“逃げ惑う影”が走り抜ける」「線路の向こうの壁に、血のようなものに濡れた顔が貼り付いていた」「耳元で『刃物を持っている』と叫ぶ声を聞いた」それらは皆、事件当夜の混乱と重なるものだったといいます。ある晩、終電を降りた女性が小さくつぶやいたそうです。「振り返ってはいけない」しかし彼女は、その言葉の直後に数歩後退し、静かに振り返ったといいます。壁の向こうには、黒く濁った瞳が浮かんで...