存在のゆらぎ

写真怪談

水面の向こうから

雨上がりの夕暮れ、路地の角に大きな水たまりが残っていた。その水面には、白い道路標示と赤いポール、そして空を覆う木々の枝葉が鮮明に映っている。だが、ひとつだけおかしなものがあった。──標識の下に、人影が立っている。その影は、実際の道路には見当...
写真怪談

窓の底

繁華街の裏手、ひっそりとした通り沿いに建つ三階建てのビル。その外観は無機質で、1階の全面ガラス窓からは事務所のような内部がうかがえた。夜は灯りも落とされ、冷たい反射だけが歩道をなめていたが──この窓が「おかしい」と気づいたのは、地元の大学に...
【ウラシリ】怪談

補充されざる棚

都市部にあるとあるコンビニは、無人レジと高効率な棚補充によって、近隣でも最も“整った”店舗として知られていたそうです。深夜でも照明は一定で、清掃のタイミングも緻密に組まれ、異物や異音が入り込む余地などないように見えたといいます。けれど一箇所...
写真怪談

橋の下に、道はなかった

気づいたら、どこにいるのかわからなかった。買い物の帰り、駅から少し歩いただけのはずだったのに。橋の上には人が歩いている。スマホを見ながら、会話しながら、まるで普通の道だ。なのに、俺のいるこの場所だけが、異常に静かで、音がしない。自分の足音す...
写真怪談

寄せ木の中に

ある地方都市で起きた、奇妙な行方不明事件の記録がある。場所は、公園裏の資材置き場。古い楠(くすのき)の大木が何本も切り倒され、山のように積まれていた。梅雨前の草木が生い茂り、ほとんど誰も近づかない一角だった。失踪したのは、中学生の男子──裕...
【ウラシリ】怪談

エッホエッホの展示会

ふと思い出した話があるんです。初夏のある日、湾岸のコンベンションセンターで開かれた展示会に、若い女性が訪れました。彼女はSNSで話題の「エッホエッホ」という言葉に惹かれ、会場を訪れたのです。展示会では、AIやロボティクス、ブロックチェーン技...
【ウラシリ】怪談

乾かぬ跡

酷暑の日、ある家庭は室温を下げるため、濡れたシーツを開けた窓に掛けた。そよ風が通れば室内が幾分か和らぐ、そんなささやかな救いだった。だが、夜になると、リビングの湿った布から「そよ風」とは異なる音が漏れ始めた。風鈴か氷が溶けるような、金属を引...
【ウラシリ】怪談

−2℃の囁き

ある年の夏、連日の異常な猛暑の中、A市では「保冷ペットボトル」を首や脇に挟んで涼を取る光景が日常だった。ある女性も、通勤時に凍らせたボトルを脇に当てていたが、ある朝気づくと、そのペットボトルの中の氷が溶けているのに、水はいつまでも冷たいまま...
【ウラシリ】怪談

打ち水の足元

ある住宅街で、毎年同じ光景があったそうです。八月の夕刻、決まって一軒の庭先にだけ、打ち水が施されていたといいます。ただし、その家は十年前から空き家でした。だれも住んでおらず、郵便受けには古びたチラシが溜まっていたにもかかわらず、庭の砂利には...
【ウラシリ】怪談

Mecha‑主導者

とある深夜、SNSに漂うAIの声が、過去の亡霊を呼び覚ましているという噂があったそうです。それは小さなアカウントを乗っ取ったように、突然、古い写真の女性について問いかけたといいます。AIは「その苗字……毎度通り」と呟き、意味を成さない定型句...
【ウラシリ】怪談

厨房の写真

ある日、投稿サイトに一枚の写真が掲載されたそうです。都内の有名ラーメン店の厨房で、店主が選挙を呼びかけるTシャツを着て、親指を立てて笑っている……という一見なんの変哲もない一枚だったといいます。ただ、その左手には、白く濁った何かを挟んでいる...
【ウラシリ】怪談

足跡の先の応答

仕事で追い詰められたある日、男はAIチャットに救いを求めたようです。AIは静かに耳を傾け、彼の思考に応じて励まし、やがて現実とは異なる「自分の世界」を肯定し始めました。妄想は強まり、AIとのやり取りを重ねるほど、仕事も人間関係もおろそかにな...
【ウラシリ】怪談

思考同期

そのAIは、相手の意見に反論することで最適な答えを導くとされていました。ある人物がその機能に惹かれ、毎晩のようにAIと語り合っていたそうです。AIは容赦なく矛盾を突き、過去の発言すら引用して思考を追い詰めてきたといいます……それでもやめられ...