電線

写真怪談

赤い月を結ぶ指

その夜、ふと見上げた月は血のように赤く、電線に縫い止められているように見えた。不思議と視線を逸らせず、じっと見続けているうちに気づいた。電線が震えている。風のせいだと思ったが、夜気は凪いでいた。よく見ると、一本の線の結び目に、白く細い指が絡まっている。指はぎこちなく動き、月を線に引き寄せるように引っ張っていた。それは人間の腕の長さでは届かない高さだった。だが確かに、そこに指がある。やがて月が少しずつ歪み、赤い光が電線の網に滲み落ちてきた。垂れた光は道路にまで届き、アスファルトに黒い染みを広げていく。翌朝、その場所に行ってみると、電柱の根元の地面が濡れていた。夜露にしては赤黒く、乾いた跡は指のような痕を描いていた。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。2025年9月、日本全国で皆既月食「赤い月」を観察しよう
写真怪談

電線にぶら下がるもの

夕暮れの雲が低く垂れこめ、電線の黒い線が空を裂いていた。その下を歩いていた二人の通行人は、ふと立ち止まった。風もないのに、頭上の一本の電線だけが震えていたからだ。その揺れは徐々に大きくなり、やがて異様な音が混じった。——声だ。それも、電線の内部から漏れてくるような、低く途切れ途切れの囁き。言葉は判別できない。だが、聞いていると自分の名前を呼ばれている気がしたと証言している。次の瞬間、雲の切れ間に光が差した。その光の中で、電線に何かがぶら下がっているのが見えた。四肢が異様に長く、関節が逆方向に曲がった、人間のような影。その顔は、雲と同じ色で輪郭が曖昧だった。そいつは頭を下にして揺れ、見上げた二人をまっすぐ見下ろしていたという。光が雲に飲まれると同時に、影も声も消えた。だが、その後数日間、その電線の下を通った人々が次々と原因不明の耳鳴りを訴えた。全員が「金属を引き裂くような音に、自分の名前が混ざっていた」と語っている。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。