雨上がりの夕暮れ、路地の角に大きな水たまりが残っていた。
その水面には、白い道路標示と赤いポール、そして空を覆う木々の枝葉が鮮明に映っている。
だが、ひとつだけおかしなものがあった。
──標識の下に、人影が立っている。
その影は、実際の道路には見当たらない。水面の中だけに、じっと佇んでいた。
頭からすっぽりとフードをかぶり、顔は濃い影に沈んでいる。
ただ、肩から腰にかけて、細く長い腕がぶら下がり、水面の奥へとだらりと伸びていた。
見つめていると、その腕がわずかに動く。
水面の中の影が、こちらに向かって一歩、にじり寄る。
その瞬間、足元のアスファルトがぞわりと湿り、靴底が冷たく沈んだ。
反射的に足を引くと、水たまりの波紋は広がらなかった。
ただ影だけが、こちらの足元にぴたりと寄り添い、水の底へと引きずり込もうとする。
気づいた時には、足首までが水面の下に埋まっていた。
見下ろすと、そこにはもう道路の映り込みなどない。
暗く濁った深い水の中、無数の腕が揺れ、静かにこちらを待ち構えていた。
次に瞬きをした時、私はもうその路地にはいなかった──。
この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。