ある廉価帯の新しいノートが発売されたあと、初期不良の確認を請け負う窓口に、妙な返送品が集まったそうです。目立った傷はなく、起動もする。十三インチの高精細な画面、長く保つ電池、四つの筐体色――淡い桃、深い藍、銀、柑橘に似た黄緑。どれも宣伝どおりで、検査表の上では「異常なし」に近かったといいます。
ただ、持ち主の訴えだけが揃っていたそうです。
閉じたあとも、部屋が少し明るい。
朝方になると、机の上に、細い線の光が出ている。
誰かが別の部屋で、まだ使っているように見える――と。
窓口では最初、蓋の閉まりが甘いのだろうと考えたそうです。最近の機種は薄く、角も丸い。鞄に入れて持ち歩きやすい代わりに、わずかな歪みで隙間が出ることはあります。だから一台ずつ、暗室に近い点検室へ持ち込み、電源断、放電、開閉の確認をしたそうです。
最初におかしかったのは、黄緑の一台でした。
電源は確かに落ちていたそうです。画面は消え、充電器も外し、しばらく待った。なのに、蓋の合わせ目にだけ、糸のような薄い光が残っていたといいます。漏れた、というより、閉じたはずの内側にまだ奥行きがあって、そのいちばん深いところが、かすかに明るい――そう見えたそうです。
点検係は顔を寄せ、横から覗き込みました。隙間は、本来なら何も見えない幅です。せいぜい、反射した自分の睫毛が見える程度。けれどその夜、その隙間の向こうには、もうひとつ細長い部屋があったといいます。
部屋といっても、家具はありません。ただ、壁も床も天井も、薄い金属でできたように青白く、中央にだけ、小さな机のような面があったそうです。そしてその面の上を、何かが撫でていた。
指だった、と聞きます。
人の指に見えたそうです。五本きちんとあるわけではない。節があるとも言い切れない。けれど、爪のある先端だけは妙にはっきりしていて、閉じた蓋の内側を、向こうから静かに探っていたといいます。開き口を測るように、端から端へ。
点検係は、咄嗟に本体を押さえたそうです。すると、向こう側のそれも、同じ場所にぴたりと止まったといいます。薄い金属板を隔てて、外と内で、ちょうど同じ位置に。
その時、蓋の内側から、ほんの小さく「こつ」と鳴ったそうです。
爪が当たる音に似ていた、といいます。
慌てて蓋を開けると、画面は真っ黒だったそうです。十三インチの表示面には何も映らず、キーボードも、淡い色のまま整っている。けれど、掌を置くあたりのアルミには、内側から押されたような小さなふくらみが五つ、並んでいたといいます。へこみではなく、ふくらみです。叩いた跡が、逆向きに出ていたそうです。
その一台だけでは片づかなかったようです。
別の日、桃色の一台が戻ってきました。こちらは「夜中、閉じたまま誰かの顔色が変わる」と言われたそうです。点検室で暗くして待つと、合わせ目の光はたしかに現れました。今度は細い線ではなく、人が寝息でわずかに口を開ける時のように、中央だけが少し広くなっていたといいます。覗き込んだ係の目に見えたのは、向こう側の小さな部屋ではなく、何かがこちらへ額を押し当てている様子だったそうです。皮膚の色ではない。画面の桃とも違う。ただ、湿ったものが、向こうから光を塞いでいる感じだけがあった、と。
銀の一台では、もっとはっきりしたことが起きたそうです。
暗い点検室で机に置き、誰も触れずに見ていると、閉じた本体の前縁に沿って、薄い光が右から左へ移動したといいます。中で誰かが、寝返りを打つように。移動しきったあと、トラックパッドの裏あたりで止まり、そのまましばらく、こちらの様子をうかがうように明るさを保ったそうです。
藍色の一台は、さらに厄介でした。蓋を閉じても、キーボードのすき間から、ごく弱い温かさが抜けてきたそうです。送風でも発熱でもなく、もっと湿った、人の手のひらに近い温度だったといいます。しばらくすると、キーのひとつひとつが順番にわずかに沈み、また戻る。文章を打つほど明確ではない。けれど、誰かが「ここが外かどうか」を、一個ずつ確かめているようだった、と。
四台とも、共通していたことがあったそうです。向こう側の明かりは、部屋を暗くするほど深くなる。こちらが眠る支度を整える時刻に近づくほど、隙間の奥行きが増す。逆に、室内を明るくし、人の気配を絶やさないでいると、ただの薄い継ぎ目に戻ることが多かったといいます。
だから、その返送品たちは、しばらくのあいだ、夜でも照明を落とさない保管室にまとめられたそうです。箱にも袋にも入れず、棚に閉じず、光の下に並べて。閉じたまま、眠らせないように。
それで落ち着いたのかどうかは、はっきりしません。
ただ、朝の引き継ぎに入った人が、一度だけ、保管台の上に並んだ四台を見て、数を間違えたことがあるそうです。四色のはずなのに、暗い棚の奥に、もう一台、色の判別できない閉じた本体が見えていた、と。
誰かが手を伸ばした時には、もうそこには何もなかったそうです。
それでも、その棚だけは今も、夜間の消灯対象から外されていると聞きます。閉じた機械に、部屋を与えないためだそうです。あの十三インチの隙間の向こうに、まだ誰かがいるのかどうか――確かめるには、こちらも同じだけ身を寄せなければならないからです……そんな話を聞きました。
この怪談は、以下の記事をきっかけに生成されたフィクションです。
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