二月の寒い朝、車の通りが多い道沿いに、古い自動販売機が並べられていたそうです。外装は昭和のまま残っていて、いったん途絶えたものが「復活した」と話題になり、寒いのに行列ができていたといいます。
その機械は、温かい飲み物だけではありませんでした。紙コップの「みそ汁」と、季節外れの「かき氷」。冗談のような取り合わせなのに、並んでいる人たちの顔は真剣だったそうです。
先頭の人がみそ汁を買うと、取り出し口から白い湯気が立ちました。ところが、湯気は上へ昇らず、胸のあたりで薄く崩れて消えた、と。近くにいた人は、あの場所だけ空気が重く、息が広がらないように見えたと言っていたそうです。
次に、面白半分でかき氷を買った人がいました。スプーンでひと口すくった瞬間、その人の白い息が出なくなったといいます。寒いのに、吐く息だけが透明のまま。本人は笑っていたのに、笑い声が周りまで届かず、口の動きだけが先に見えるような、奇妙な間ができたそうです。
不思議なのは、その異変が「買った人だけ」に起きたことです。列の後ろにいる人の息は白いままなのに、紙コップを手にした人の周りだけ、音が薄くなる。硬貨の落ちる音が遠くなり、会話が空気を押さなくなる。騒がしさだけが残って、中身が抜ける……そんなふうだったといいます。
自販機の前面ガラスにも、妙なものが浮いたそうです。外側を触っても指紋はつかないのに、内側だけが曇り、掌を押し当てた跡が増えていく。曇りの形は、指の節まで分かるほど生々しく、まるで向こう側から、こちらの温度を確かめているように見えた、と。
その場を離れた人が、家に戻ってからも落ち着かなかったそうです。ポケットの小銭が、手のひらに不自然な熱を残す。机に置くと、薄い輪染みができて、そこだけ匂いが立つ。みそ汁の香りが、湯気ではなく“熱”と一緒に移ってきたようだった、と語ったそうです。
翌日、同じ場所へ行った人もいたようです。けれど自販機は撤去され、台座だけが残っていました。風が抜けるだけの空き地なのに、地面の一点だけが乾かず、丸い輪の形に霜が残っていたといいます。指を近づけると皮膚が吸い付くように冷たく、輪の内側からだけ、ゆっくり白い息が立ったそうです。
誰の息なのかは分かりません。確かめた人もいないようです。ただ、「みそ汁」と「かき氷」を売っていたはずの機械は、温かさを手渡す代わりに、何か別のものを集めていたのかもしれません……そんな話を聞きました。
この怪談は、以下の記事をきっかけに生成されたフィクションです。
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