空白の利用カード

ウラシリ怪談

ある国立大の中央図書館が、学外者向けに「メールで利用カードを申請できるようにした」と告知したそうです。来館前に申請しておけば、最初の来館時に受け取れる。発行まで約一週間。開館時間は朝早くから夜遅くまで……よくある親切な案内です。

その案内を読んだ人が、添付された申請書を印刷して書いたといいます。氏名、住所、連絡先。紙の上では整っていて、封筒にも同じ内容の控えを入れた。送信後に届いた受付通知も、いつも通りの文面だったそうです。

一週間後、二月のカレンダーが掲示された入口を抜け、窓口で「申請済みです」と伝えると、係員は名簿をめくり、首をかしげました。「お名前が……見当たりません」。しかし送信日時と受付番号を告げると、今度は別の名簿を出し、そこには確かに番号が載っていたそうです。番号の右に、薄い枠だけがありました。文字が入るはずの場所が、最初から空白のまま。

係員は、申請書の控えを見せてくださいと言いました。控えの紙には、確かに筆圧の跡が残っているのに、インクだけがありませんでした。なぞった線の凹みだけが、名前や住所の形で紙の繊維を潰している。まるで、書いた記録を“剥がした”あとのように。

「たまに印刷が薄いことが」と係員は言い、再提出を促したそうです。窓口で新しい用紙に書き直し、確認のためその場でコピーも取った。ところがコピー機から出てきた紙は、また同じでした。枠と罫線だけ。手で書いたはずの部分が、白いまま残っている。

係員が次にしたのは、利用カードの束を数えることでした。一枚足りない、と小さく呟いたそうです。束の最後に、透明なプラスチック片が一枚だけ混じっていた。カードの形をしているのに、番号も磁気帯も何もない。ただ、光にかざすと、削ったような細い溝で文字の跡が浮く。名前らしきもの、住所らしきもの、そして「受け取り」という短い語。

その後、その図書館では「メール申請は便利です」という告知が続いたそうです。ただし、受け取り窓口の手順書だけが、いつのまにか一行増えていたといいます。
――「空白のカードを渡された場合、受領印を押さず、すみやかに返却してください」。

けれど、その一行が載っている手順書を、実際に見た人は少ないそうです。話をした係員も、次に行った時には異動していて、名簿から名前が消えていた……そんな話を聞きました。

この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。

(学外の方へ)図書利用カードのメールによる申請の受付を開始しました

(学外の方へ)図書利用カードのメールによる申請の受付を開始しました - ニュース&インフォメーション - 横浜国立大学附属図書館
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