遮断機の内側

ウラシリ怪談

元旦の午後、ある通勤路線で踏切事故が起き、列車が脱線して運転が止まったそうです。再開は翌朝の始発から――そういうニュースとして、ただ流れていった出来事でした。

けれど、止まっている時間帯の踏切にいた人たちの証言だけが、妙に一致しているといいます。
警報音が鳴りっぱなしなのに、電車の気配がまったく来ない。遮断機が下りたまま、車列だけが伸びていく。誰もがスマートフォンの画面に視線を落としている、その隙間に――踏切の内側に、ひとり立っている影が見えた、というのです。

影は、渡ろうともしない。逃げようともしない。
ただ、遮断機の棒のすぐ向こう、レールとレールの間に立って、こちらを向いている。服の色も年齢も、人によって言い方は違うそうです。それでも同じ点がひとつだけある。
「顔が、うまく思い出せない」
見たはずなのに、思い出そうとすると、顔の位置だけが空白になるらしいです。

事故の直後、現場の周囲は立ち入りが制限され、保守の人間と関係者だけが出入りしたそうです。夜に切り替わったころ、作業灯の白い光の中で、誰かが線路脇を歩く足音がした。砂利が沈む音が、一定の間隔で続いた。
作業員がライトを向けた瞬間、光は確かに人の胴体を拾ったのに、次の瞬間には何もいない。
代わりに、踏切の遮断機だけが、下りてもいないのに「下りる途中」の角度で止まっていたそうです。半端な角度のまま、小刻みに震えていたといいます。

翌朝、運転再開の一番列車。運転士が最初に報告したのは、異常音でも機器の警告でもなく、「人がいる」という声だったそうです。
踏切の内側に、昨夜の影と同じ位置。遮断機の棒のすぐ向こう。こちらを向いて立っている。
運転士は警笛を鳴らし、非常制動をかけた。
ところが、減速の途中で影は動いたらしいです。踏切から一歩も出ず、ただ顔だけを持ち上げるようにして――まるで窓のこちらに“近づく”みたいに。

車内の乗客が見たのは、運転台のガラスに一瞬だけ映った「白いもの」だったといいます。逆光の中で、顔の輪郭だけが浮いて、目鼻がない。
次の瞬間、列車は踏切手前で止まり、車内アナウンスが入った。運転士の声が、いつもの抑揚で、こう言ったそうです。
「ただいま、踏切内に――」
そこで言葉が途切れた。続きが来ない。沈黙が長すぎて、乗客がざわめいたころ、スピーカーの奥で、別の声が囁いたというのです。
「まだ、いる」

確認に向かった係員は、踏切内に誰もいなかったと説明したそうです。けれど、遮断機の棒の根元だけが濡れていた。朝露にしては不自然に、手のひらの跡みたいに、べったりと。
その濡れは、棒の“内側”にだけ残っていたといいます。外側には一滴もない。渡る側ではなく、線路側から、触れたような跡だったそうです。

それから、その踏切には小さな噂が増えたらしいです。
運転見合わせが起きた日にだけ、遮断機の内側に影が立つ。顔を思い出せない影が、こちらを向いている。
そして、うっかり目を合わせた人は、次に電車に乗ったとき、窓の反射に“自分じゃない顔”が混じるようになる――そんな話です。
混じる顔は、いつも目鼻がなく、白くて、遮断機の内側からこちらを見ているのだとか……そういう噂だけが残っているようです。

この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。

JR宇都宮線の列車と車の事故 運転見合わせの宇都宮線・湘南新宿ライン2日始発から運転再開へ

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