補充されざる棚

【ウラシリ】怪談

都市部にあるとあるコンビニは、無人レジと高効率な棚補充によって、近隣でも最も“整った”店舗として知られていたそうです。
深夜でも照明は一定で、清掃のタイミングも緻密に組まれ、異物や異音が入り込む余地などないように見えたといいます。

けれど一箇所だけ、担当者が口を濁す場所があったそうです。
それは、レジ横の惣菜棚の背面。
その棚だけは直接手で商品を置かず、店舗裏手から棚の裏側に接続された特殊な小扉を介して、トレイごとスライドさせて補充する構造になっていたといいます。
設計上の都合と説明されていたそうですが、周囲の棚とは異なり、裏側からの空調が必要なほど“冷える”場所だったといいます。

ある深夜、補充担当が惣菜を一つ誤って前に出し過ぎ、表側の棚から落下したそうです。
拾い上げようと棚の奥を覗き込むと、一段奥に“抜け”のような空洞があったといいます。
建築図面上存在しないその隙間の奥には、もう一段、古い木製の床のような質感が見えたそうです。
そして、そこからわずかに風の音とも、擦れる布ともつかない微細な音が響いてきたと……そんな報告が記録に残っているそうです。

翌朝、別の従業員がその棚の廃棄分を整理した際、商品一つのパッケージに「バーコードが存在しない」と気づいたそうです。
印字はやや黄ばみ、包装デザインも現行のものと微妙に異なっていたといいます。
念のため製造元に確認されたところ、「その型番の商品は五年前に製造終了した」と回答されたそうです。
ただ、その旧型番の商品が、かつて同系列の別店舗──現在は閉店済み──で使われていた記録だけは残っていたといいます。

不審に思った管理者がその旧店舗の記録を確認したところ、搬入口が「なぜか内側からロックされたまま」になっていることがわかったそうです。
実地確認のため清掃業者が現場を訪れると、密閉されたシャッターのすぐ外に、経年劣化した惣菜の包装紙がいくつか落ちていたといいます。
鍵はかかっていたにもかかわらず、ゴミは「内側から」排出された形跡があったそうです。
指紋は検出されず、包装紙には微量の土壌と花粉が付着していたそうですが……どこから流れ込んだものかはわからないとされています。

その数日後、件の店舗で「冷蔵庫エラー」が発生しました。
対象はあの惣菜棚の背面の空調ユニットで、温度が設定を下回ったまま安定せず、保守が来るまで「氷結寸前」まで冷えたと報告されています。
不具合は再現されず、原因も不明とされたそうですが、以後その棚だけは“売り切れ”が頻発するようになったといいます。
どの記録にも、該当商品の発注も納品もないにもかかわらず、早朝には「売上が計上されていた」そうです。
棚に並んだ空パックには、微かに濡れた指跡のようなものが残っていたと……
それが誰のものなのか、いつ置かれたのか、確認された記録は一度もないそうです。

ただ、午前三時十五分の前後三分間だけ、レジ前のカメラ映像がわずかに滲む現象が今も繰り返されているそうです。
録画には異常はなく、店舗側でも原因は不明のままですが、その時間帯だけはスタッフが自主的にレジを離れるようになっているといいます。
いま、その棚は他と変わらず明るく整えられていますが……深夜に惣菜を手に取った客が、稀に「冷たすぎて落とした」と訴えることがあるそうです。

その後も同じ商品だけが、誰の記録にも残らず、空のまま減っていく状態が続いているそうです。
記録はそこで終わっています……そんな話を聞きました

この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。

Coffee, sandwiches, underwear, beer: a day in the life of Japan’s beloved konbini stores

https://www.theguardian.com/world/2024/nov/08/coffee-sandwiches-underwear-beer-day-in-the-life-japan-konbini-stores

 

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