朝の通勤路に、いつからかカラフルなパイロンが並んでいた。
工事の予定などなかったし、誰も設置しているところを見ていない。
最初はオレンジばかりだったが、ある日から並びが変わった。
黄色、緑、青、赤…きれいな配色だと思った瞬間、違和感に気づいた。
配列が完全に「俺の通勤服の色の順」になっている。
昨日ネクタイが青だった日は、青が中央にあった。
今日はグレーのジャケットを着たら、最後尾のパイロンもグレーだった。
その日から、誰にも話せなくなった。
駅に向かうと、パイロンが1本、俺の行く先を向いて傾いている。
音もなく、フェンスの内側からこちらを向いて。
一度だけ、近づいてみた。
パイロンの中、筒の奥に、黒い“目”が光っていた。
この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。
……これ……不思議ですよねぇ……。
普通、コーンっていえばオレンジ色の、ね、いかにも工事中って雰囲気のものが多いんですけど……この写真、よぉく見ると……黄色、緑、青……色とりどりなんですよ。ええ……まるで信号みたいに。
……でもね、これ……「色」だけの問題じゃないんですよ……。
かつて、ある県道沿いの資材置き場でね……まったく同じように色とりどりのコーンが、こうして金網の中に並べられてたんです……。夜になると、その中から“誰か”の声が聞こえるって、近所の人が通報したことがあったんですよ……。
「おい……出してくれ……ここから出してくれよ……」
最初は酔っ払いでも紛れ込んだのかと思った警察が来て、中を確認したんですけど……誰もいない……ええ、“生きてる人間”は……ね。
でも、その中にいた巡査がね、緑色のコーンの中を、なぜかじぃっと見つめて動かなくなった……。肩を叩かれて我に返ったとき、こう言ったんです。
「……あの中、誰かが覗いてた。目が合った……だけど……目が、逆なんだよ……“裏側から”覗いてたんだ……」
怖いな〜怖いな〜……おかしいな〜おかしいな〜……
ねぇ……視たいですか? 本当に……視てしまって、後悔しませんか……?
でも、その顔……夜中にもう一度見たとき、同じ表情をしてるとは限りませんよ……ええ……。