ある年の暮れ、二つの官庁が共同で「市区町村ごとの数字を横断して見える化する盤面」を公開したそうです。経済、財政、人口、暮らし――そうした項目が、地図と表と折れ線で、静かに並ぶ仕組みだったといいます。利用者の声を集めて改善するため、意見も募っていたそうです。
最初に違和感が出たのは、市役所の端末でその盤面を開いた時でした。七つの分類に分けられた指標は整然としていて、反応も早く、地図の色も滑らかに切り替わったそうです。けれど、画面の隅にある「留意事項」を開くと、そこだけ文字が一度、にじんだといいます。
“システムの都合上、地図は一定以上の面積の島を機械的に表示しています”
その一文が、読み返すたびに少しずつ違って見えたそうです。島、ではなく、町――とも。面積、ではなく、人数――とも。どちらでも意味が通るように、文が薄く揺れたのだといいます。
盤面には「地図でみる」「他と比べる」「関係をみる」「推移を並べる」といった操作が用意されていたそうです。試しに「他と比べる」を開くと、条件の近い団体が自動で抽出される仕組みでした。人口規模、高齢化率、財政の指数――そうした条件が同じところを、機械が選ぶのだそうです。
その一覧に、見覚えのない名前がひとつ混じったといいます。行政の現場にいる人なら、知らないはずのない種類の文字列でした。けれど、それは「自治体名」の形をしていながら、どこにも存在しないような、妙に整った“空欄”だったそうです。
クリックすると、地図のその場所だけ境界線が消えたといいます。色も、値も、凡例も、そこだけが抜け落ちたように白く残り、周囲の市区町村がそれを避けるように歪んだそうです。
次に「一括ダウンロード」を使った時、異変ははっきりしたといいます。期間を指定してデータを落とすと、表の末尾に列が一本増えていたそうです。列名は短く、記号のようでした。中身は数値ではなく、同じ桁数の“何か”が延々と並んでいたといいます。住民票コードのようにも見え、違うようにも見える。しかも、その列が埋まっているのは、先ほど白く抜けた場所に関係する行だけだったそうです。
誰かが「改竄だ」と口にしたそうですが、ログはきれいで、更新時刻も整いすぎていたといいます。むしろ、最初からそういう仕様であったかのように、盤面は静かに正しい顔をしていたそうです。
そして、例の“留意事項”が、ある日を境に完全に変わったといいます。
“システムの都合上、地図は一定以上の面積の人を機械的に表示しています”
人。
その言い間違いを指摘しようとしても、次に開いた時にはまた「島」に戻っている。けれど深夜、印刷された紙面には確かに「人」と残っていたそうです。
ほどなくして、役所に奇妙な問い合わせが増えたといいます。「地図から自分の地区が消えた」「数字がゼロになっている」「比較先に知らない団体が出る」。誰もが同じ画面を見ているのに、消える場所が少しずつ違う。条件の“しきい値”が、人によって微妙に違うようだったそうです。
意見募集のフォームに不具合を報告しようとした職員がいたそうです。送信画面を開くと、本文欄がすでに埋まっていたといいます。箇条書きで、短い要望が並んでいたそうです。
早めに更新してほしい。
画像を保存したい。
PDFで作ってほしい。
どれも見覚えのある要望でした。けれど最後の一行だけが、違ったそうです。
“更新は終わりました”
送信ボタンを押した瞬間、盤面の地図が一斉に再読み込みされ、白い穴がひとつ増えたといいます。その穴の位置は、報告した職員が住んでいる地区と重なっていた――そういう記録が残っているそうです。
翌朝、その地区の住民データは“取得不能”になり、住所の候補からも抜け落ちたといいます。郵便物は返送され、電話は「存在しない番号」と案内し、窓口では誰も、その地区の名前を思い出せなくなったそうです。
盤面の更新は、確かに終わったのかもしれません。終わったのは、数字のほうではなく、数字にされる側だったのではないか――そんな含みだけが残り、以後その端末の記録は途切れているそうです……。
この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。
デジタル庁と内閣府、市区町村単位の「Japan Dashboard」を公開──経済・財政・人口・暮らしを横断可視化
デジタル庁と内閣府、市区町村単位の「Japan Dashboard」を公開──経済・財政・人口・暮らしを横断可視化 | Ledge.aiAI・人工知能関連のニュースやトレンドを高頻度で配信!最新ニュースやインタビュー、イベントレポートなどAIに関するさまざまな情報を独自の切り口で掲載


