灯りのないツリー

ウラシリ怪談

北のほうの住宅街で、新築の時に庭へ植えた木があるそうです。家族が増えるたびに背が伸びて、冬になると毎年その木を“ツリー”にしてきたといいます。十一度目の冬も、いつも通り飾り付けはされたそうです。ただ、その年は電飾を使わなかった。熱を持つものは何ひとつ付けていなかった……そう記録されています。

その晩、近所の人が気づいたのは、光ではなく匂いだったそうです。薪でも料理でもない、甘い樹脂が焦げるような匂いが、雪の冷たさの中に混ざっていた。庭の木のほうからだと気づいて窓に寄った時、飾りの球が、ひとつだけ曇っていたといいます。まるで内側から息を吐かれたように。

次の瞬間、木が燃えました。炎は派手に立ち上がるのではなく、幹の“中”で静かに増えていったそうです。枝先の飾りは揺れるだけで、火が触れている気配が薄い。それなのに幹は、夜の真ん中で熱を吐き続けた。雪が降っているのに、幹の周りだけ地面が黒く濡れていった……そんな証言が残っています。

消火が終わったあと、不思議なことがいくつもあったといいます。配線はなく、焦げた電飾もない。熱源になるものが見当たらない。なのに木だけが焼け、飾りのいくつかは、煤をまといながら形を保っていた。調べに来た人たちが「誰かが火をつけたのかもしれない」と言った、とも。

けれど“それ”が起きた庭には、足跡が残らなかったそうです。雪は均され、侵入の跡らしいものがない。火が出たあとの幹の表面には、焦げた樹皮が剥がれて、年輪のような筋が露出していました。ただし、年輪ではなかった。筋は輪ではなく、いくつもの“指”に見えたといいます。幹の同じ高さに、左右から押し当てられたような跡が、十一組。小さな手のひらが、木を抱いている形で焼き付いていた……そんなふうに見えたそうです。

その後、木は切り倒されたといいます。残った切り株も、冬の終わりに抜かれたそうです。ところが翌年の十二月、庭の同じ場所に、また“飾り”が現れた。風で飛んできたにしては整いすぎた球やリボンが、雪の上に円を描いて並んでいたそうです。誰かが片付けても、翌朝には戻っている。しかも数が、いつも十一個。増えも減りもしない。

最後に残っているのは、通報の時刻と、現場を見た人たちの短い言葉だけだそうです。庭に立っていた木が、灯りもないのに燃えたこと。火が消えたのに、抱きつくような跡が消えなかったこと。そして、飾りが“戻る”こと……その先の記録は、なぜかそこで途切れているようです。

この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。

クリスマスツリー突然燃える “熱源なし”放火の可能性も

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札幌でクリスマスツリーから火の手が上がり、警察が放火の可能性も含め調べています。 クリスマスツリーとして飾り付けされた木は、札幌・西区の住宅で11年前に植えられました。 ツリーに電飾などの熱源はなかったといいます。この家に住む女性「新築した時に植えてもらって、子どもたちと一緒に育ってきた木。つらい気持ちはあります」

 

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