四時四分の深さ

ウラシリ怪談

記録上では、午前四時四分に揺れがあったそうです。
震源は南の沖合で、深さは三百八十キロほど。
規模は五・三。
最大でも震度一で、津波の心配はない――そう発表されていました。

ところが、都心のビル街にある、ある集合施設の防災室だけが、妙に落ち着かなかったといいます。
「揺れ」を感じた者はほとんどいないのに、警報盤の履歴だけが、揺れ方を知っているように並び続けたそうです。

まず、気配は“時刻”に出ました。
防災盤、エレベーター、入退室のカードリーダー、監視カメラ。
どれも同じ時刻に同期されているはずなのに、その晩だけ、午前四時四分が二度記録されていたといいます。
一度目の四時四分は、通常の揺れの記録でした。
二度目の四時四分は、なぜか「揺れなし」と付記され、けれど同じ行に、深さ三百八十キロという数値だけが、余計に残っていたそうです。

その施設には、地下から地上へ抜ける長い避難通路があるそうです。
普段は施錠され、訓練の時だけ開けられる。
そこで発現したのは、監視カメラの映像でした。

二度目の四時四分。
通路の鉄扉は閉じたままなのに、廊下の奥から、床の明かりが“増えていく”ように見えたといいます。
照明が点いたのではなく、足元の誘導灯の緑が、一本ずつ、奥へ奥へと続いていく。
その数が、建物の図面にある距離を超えたあたりで、映像の時間表示が一瞬だけ欠けました。
欠けたのは、三百八十秒だったそうです。

時間表示が戻ったとき、通路の奥には、何かが立っていました。
人影に見えるのに、影だけが薄く、輪郭だけが濃い。
腕を垂らし、頭を少し下げている。
ただ、その場に“いる”のに、カメラの暗視では体温の反応が出ない。
揺れの記録が「震度一」に揃っているはずなのに、その瞬間だけ、床の振動センサーが「震度一」を一分以上、出し続けたといいます。
まるで誰かが、通路の先で、ゆっくりと足踏みを続けているように。

さらにおかしいのは、映像の保存のされ方でした。
データをコピーすると、二度目の四時四分が消える。
コピー先を変えると、消えるのは一度目の四時四分になる。
確認のために書き起こした時刻表だけが手元に残り、元の映像は、いつの間にか“通路が空の四時三分”に差し替わっていたそうです。
それでも履歴には、深さ三百八十キロという数字だけが、どうしても消えずに残る。
数字の横には、誰も入力していないはずの、短い注記が増えていったといいます。
「到達」
「到達」
「到達」
同じ文字が、四時四分の行にだけ、静かに増殖していたそうです。

残響は、翌日から始まりました。
毎晩、午前四時四分になると、防災室の時計だけが一分遅れ、他の時計が一分進む。
揺れていないのに、揺れたことになり、揺れたはずの記録が、揺れていないことに変わる。
それでも、建物のどこかにある“長すぎる通路”だけは、少しずつ、確かに伸びていくようだったといいます。

最後に残ったのは、印刷された紙のログでした。
四時四分が二度ある。
二度目の四時四分には、深さ三百八十キロ。
そして、その下にだけ、鉛筆で擦ったような跡があり、数字の「3」と「8」と「0」だけが、何度もなぞられていたそうです。
誰が触ったのかは分かっていません。
ただ、その紙の端には、通路の誘導灯の色に似た薄い緑が、指の形で残っていた……そんな話を聞きました。

この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。

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