鉄道ホームに潜む余白

【ウラシリ】怪談

とある地下鉄の駅で、刃物を持った男が乗客を切りつける事件がありました。
利用客が逃げ惑い、構内は騒然となり、数人が負傷したと報じられています。
数日後には落ち着きを取り戻し、いつもの朝夕の混雑が戻ったそうです。

けれども、その頃から妙な報告が増えたといいます。
終電後に点検をしていた駅員が、ホームの壁に張り付くような黒い影を見たそうです。
振り返っても誰もいない……監視映像には人影は映っておらず、ただセンサーだけが一瞬、人型の反応を示していたと記録されています。

やがて、利用客のあいだでも囁かれるようになりました。
「電車を待っているとき、視界の端を“逃げ惑う影”が走り抜ける」
「線路の向こうの壁に、血のようなものに濡れた顔が貼り付いていた」
「耳元で『刃物を持っている』と叫ぶ声を聞いた」

それらは皆、事件当夜の混乱と重なるものだったといいます。

ある晩、終電を降りた女性が小さくつぶやいたそうです。
「振り返ってはいけない」
しかし彼女は、その言葉の直後に数歩後退し、静かに振り返ったといいます。

壁の向こうには、黒く濁った瞳が浮かんでいた……
それは事件で傷を負った者たちの、恐怖に固まった眼差しに似ていたそうです。

以来、この駅では“夜遅くに利用しない”“壁をじっと見ない”という暗黙の注意が広がったといいます。

けれども、監視室に残された映像には、時折不可解な揺らぎが記録されるそうです。
走り惑う人影、倒れ込む影、刃物を振り上げる影……
そして最後に、モニタを見ている“誰かの背後”に、黒い影が映っている。

……その先の映像は、いつも同じ場所でぷつりと途絶えているのだと聞きました。

この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。

「刃物持っている」東大前駅で切りつけ事件 逃げる利用客で構内混乱 — 朝日新聞

「刃物持っている」東大前駅で切りつけ事件 逃げる利用客で構内混乱:朝日新聞
東京都文京区の東京メトロ南北線東大前駅で7日夜、男が刃物を振り回し、複数人が負傷した。帰宅時間帯で混み合う電車内や駅構内は逃げ惑う利用客で混乱に陥った。目撃者らが取材に対し、事件当時の状況を証言した…

 

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