黒雲の下、橋の向こうで待つもの

写真怪談

夜祭の最終日。
送り火を控えた河原はすでに立入禁止となり、橋の入り口には監視員たちが列を成して立っていた。

「ここから先は入れません」
通りかかる人々にそう告げる声が夜気に溶けていく。だが、河原には誰一人いないはずだった。

ふと、一人の監視員が違和感を覚える。
仲間の足元に並ぶ影の列――そこには人数分より一つ多い影が混じっていたのだ。灯りの位置からすれば、そんなはずはない。

「……誰だ?」
振り返っても、人影はなかった。だが視線を戻すと、影はすでに形を変え、立入禁止の先へと這い進んでいく。まるで黒い獣が河原に導かれるように。

送り火の火がともる前の静寂に、低い唸り声が重なった。水面は人影もないのにざわり、と揺れ、泡立っていた。

「入ってはいないはずだ……」
そう呟いた瞬間、橋の向こうに立っていた赤い法被の男の姿が、ふっと消えた。

――まるで最初から存在しなかったかのように。

送り火の煙に誘われるのは、迎えられるべき魂だけではない。河原には今もなお、一つ多い影が紛れ込むのだという。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

 

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