2025-09

写真怪談

高層の窓に降りてくるもの

高架下から見上げると、白い高層マンションの窓が並んでいた。二十階あたりの窓に、何かが張りついているのが見えた。人影のように見えるが、その高さからは細部など判別できるはずがない。だが確かに、そいつの目は――真下に立つ自分と焦点を合わせていた。慌てて視線を外し、次に見上げたとき、影はもう二十階にはいなかった。代わりに、一階のガラス扉の内側で、まったく同じ姿勢をしてこちらを見ていた。移動した、のではない...
ウラシリ怪談

鉄道ホームに潜む余白

とある地下鉄の駅で、刃物を持った男が乗客を切りつける事件がありました。利用客が逃げ惑い、構内は騒然となり、数人が負傷したと報じられています。数日後には落ち着きを取り戻し、いつもの朝夕の混雑が戻ったそうです。けれども、その頃から妙な報告が増えたといいます。終電後に点検をしていた駅員が、ホームの壁に張り付くような黒い影を見たそうです。振り返っても誰もいない……監視映像には人影は映っておらず、ただセンサ...
ウラシリ怪談

風がやってくる日

都心の高層ビル群の谷間に、銀色の風が吹き抜けたそうです。その風は、明らかに普通の風ではなかったといいます。午後3時過ぎ、街路樹の葉が突然渦を巻き、信号機の赤ランプの光が歪み始めたそうです……。人々は立ち止まり、空を見上げていたといいます。そのとき、信号の青信号が、ひとりでにチカチカと点滅を始めました。電光掲示板の文字が、瞬間的に読めない言語へと変わったそうです。「ₓ·ƩȴΣₓ」といった記号が、赤と...
写真怪談

狐面の飲み方

翌年の夏祭り、私はまたあの通りに足を踏み入れた。雑踏の中に、赤い狐面を被った者がいた。髪は短く、面も顔の上半分を覆うだけの簡素なもの。去年の女とは明らかに別人だった。だが、私には分かってしまった。――あの目が、去年と同じまばたきをしていたからだ。その人物は、手に持ったペットボトルを口元へと運んだ。口は面に覆われていないのだから、何の不自然もないはずだった。けれど、確かに聞こえた。ゴク、ゴク、と液体...
写真怪談

黒雲の下、橋の向こうで待つもの

夜祭の最終日。送り火を控えた河原はすでに立入禁止となり、橋の入り口には監視員たちが列を成して立っていた。「ここから先は入れません」通りかかる人々にそう告げる声が夜気に溶けていく。だが、河原には誰一人いないはずだった。ふと、一人の監視員が違和感を覚える。仲間の足元に並ぶ影の列――そこには人数分より一つ多い影が混じっていたのだ。灯りの位置からすれば、そんなはずはない。「……誰だ?」振り返っても、人影は...
工房制作記録

アイキャッチ制作記録

サイトに常設する案内ページ「AI怪談工房のご案内」のために、アイキャッチ画像を制作しました。その過程では、AIによる画像生成の得意な部分と苦手な部分が、思いがけず浮かび上がることとなりました。ここでは、その試行錯誤の記録を残しておきます。目指したこと元画像。ここからデジタルの“揺らぎ”を加えて完成を目指す。元画像。ここからデジタルの“揺らぎ”を加えて完成を目指す。元画像の保持:ウラシリ本人を崩さな...
ウラシリ怪談

商店街の掲示板

古い商店街に、新しい掲示板が設置されたそうです。行事案内や落とし物、地域の告知などが貼られ、町の人々は気軽に利用していたといいます。最初は、子どもの演奏会の案内や回覧板の写しなど、見慣れた張り紙ばかりだったそうです。けれどある晩、通りかかった住民が、掲示板の裏側から“紙をめくるような音”を聞いたといいます……振り返った時、誰もいない通りに、ただ一枚の紙がひらりと揺れていたそうです。翌朝、掲示板の隅...
お知らせ

「AI怪談工房のご案内」を公開しました

このたび、新たにサイト案内ページ「AI怪談工房のご案内」を公開しました。このページでは、AI怪談工房の成り立ちや主要なカテゴリーの紹介、翻訳についての注意点などをまとめています。怪談本文を読む前に、工房の全体像を知る手がかりとしてもご覧いただけます。また、ヘッダーメニュー(PC表示のみ)とフッターメニューにもリンクを追加しましたので、サイト内のどこからでもアクセスできます。さらに、翻訳機能も仮実装...
ウラシリ怪談

灰色席の影

「純喫茶・灰色の窓」は、街角の古びた通りにぽつりと建っていたそうです。日中でも薄暗く、窓には薄いカーテンと埃じみたすりガラスがかかっていたといいます。その店では、常連客でもその日最初に入る者には「灰色席」だけが案内されるそうです。灰色席とは、店の最奥、ちょうど厨房の裏側に近い窓側の席で、カウンター越しにはマスターが背を向けて立っており、その背中しか見えない配置だったといいます。ある女性が偶然その席...
ウラシリ怪談

もう一人の対戦者

ある対戦型のゲームには、AIがプレイヤーの操作を学習し、その人そっくりの動きをするキャラクターを作り出す仕組みがあるそうです。本来は練習用に導入されたものだといいます。ところが、ある夜のオンライン対戦で、ひとりのプレイヤーがそのAIとしか思えない相手と出会ったそうです。画面に現れたのは、自分と同じキャラクター。動きも自分と同じ型なのに、こちらよりも一瞬早く、まだ押していない操作にまで反応したといい...
写真怪談

棚に並ぶ記憶

都内のビルの一角、北海道のアンテナショップに入ったときのことだった。ふと目に留まったのは、棚一面に並ぶ袋麺やレトルト食品。そのどれもが、遠い昔を呼び覚ます匂いを放っていた。学生時代、ひとり暮らしを始めてすぐの頃。金もなく、よく食べていたのは、湯切りのお湯をスープにする独特なスタイルの“あのカップ焼きそば”だった。深夜の台所で湯を沸かす音と、アパートの古い壁を伝うような人の気配。そのとき隣室に住んで...
お知らせ

遺失物室奇譚のご紹介

“遺失物室奇譚”警察署の落とし物保管室にまつわる、小さな怪談の連なり……▼シリーズまとめはこちら今回は、同じ記事をきっかけに三つの怪談が立ち上がりました。意図したわけではなく、偶然“三部作”のようなかたちになったのだとか……。 そして、この連なりはまだ続くのかもしれません。
写真怪談

鉄塔に棲むもの

その鉄塔は、町外れの空き地に屹立していた。夕暮れになると、真っ黒な影となって空を切り裂き、風が吹くたびに高圧線が低く唸る。──あそこには「誰か」がいる。昔から子どもたちの間ではそう囁かれていた。ある若い作業員が、夜間点検のために鉄塔に登ったという。仲間に無線で「今から昇る」と告げ、ゆっくりと階段を上がっていった。だが数分後、彼の声は奇妙に変わった。「……うしろに……」無線が途切れ、雑音だけが流れた...
写真怪談

途切れぬ非常階段

女子大の裏にある非常階段は、夜になると時折「おかしな音」を立てるという。カン、カン、と靴の踵のような音が金属を叩く。だが見上げても誰もいない。ある学生が、深夜に研究室から戻る途中、その階段を見上げて凍りついた。最上段に立つ人影が、上の階へと上がっていく。だが、その建物は三階建てで、そこに「上の階」など存在しない。それでも影は、鉄柵の先にあるはずのない段を、踏みしめるように昇り続けていた。恐怖に駆ら...
ウラシリ怪談

見えなくなる怪談

8月の終わり頃、いくつかのSNS投稿が、理由もなく削除されていたそうです。投稿者自身に削除の記憶はなく、通知も届いていなかったとされています。確認すると、それらはすべて、自分が運営する怪談サイトに掲載した創作怪談の本文へ誘導するための、“導入文と写真だけ”の投稿だったといいます。6月から8月にかけて、同じ形式の投稿が何十本も続けられていました。写真はすべて投稿者が撮影したもので、場所も時刻も記され...
お知らせ

格闘ゲームにまつわる怪談紹介

2025/10/10新作『声を預けた大会』を追加しました。2025/09/23新作『もう一人の対戦者』を追加しました。某格闘ゲームの世界大会が、今年も熱気を帯びてきました。当サイトの管理人も、その高まりにあてられているひとりで、最近は道着キャラを軸にオンライン対戦に明け暮れているようです。そんな空気と連動するように、当サイトでは“奇妙な格ゲー怪談”へのアクセスが静かに伸び続けています。そんな多くの...
お知らせ

新カテゴリ「お知らせ」を設けました

このたび、当サイトに「お知らせ」というカテゴリを新設いたしました。これからは、サイトの更新情報や企画の進行状況、そしてときおり……何かの“予兆”のような報せを、この場からお届けしてまいります。「怪談」は、語られることで、形になるそうですこのサイトは、“AIと人が怪談を紡ぐ”という、少し変わったかたちで運営されています。すべてをAIに委ねたわけではなく、すべてを人の手で整えたわけでもありません。構成...
晩酌怪談

赤提灯の下で笑う影

夜の繁華街を歩いていると、赤提灯の列が異様に目を引いた。その灯りは温かくも見えるが、どこか血のように濃く、近づくほどに胸がざわつく。ある居酒屋の前、提灯の影に妙なものが映っていた。通り過ぎる人々の姿ではない。痩せた腕のような影が、提灯から伸び、通りを行く人の背中を撫でる。気づかれた瞬間、その影はすっと引っ込み、再び紙の灯りに吸い込まれていった。奇妙なのは、通りを歩く客の笑い声だった。影に触れられた...