遺失物室奇譚

遺失物室奇譚

“遺失物室奇譚”は、警察署の落とし物保管室をめぐる小さな怪談の連なりです。

ただ保管されているだけの品々に、時折“名もなき残りもの”の気配が漂うことがあるそうです。

それは声の続きなのか、記録の途切れなのか……
確かめる者はいません。
ただ、この部屋には静かに積もり続けているのかもしれません。

お知らせ

遺失物室奇譚のご紹介

“遺失物室奇譚”警察署の落とし物保管室にまつわる、小さな怪談の連なり……▼シリーズまとめはこちら今回は、同じ記事をきっかけに三つの怪談が立ち上がりました。意図したわけではなく、偶然“三部作”のようなかたちになったのだとか……。 そして、この連なりはまだ続くのかもしれません。
ウラシリ怪談

鍵束の異物

交番の保管棚には、拾得された数十本の鍵が金具で束ねられていたそうです。家の鍵、車の鍵、自転車の鍵……番号札が一つずつ付けられ、誰が見ても整然としていたといいます。しかしある夜勤の署員が数を確認すると、昨日より一本多くなっていたそうです。新たな届け出はなく、署員の誰も追加していないのに、束の中に見慣れない鍵が紛れていたといいます。不審に思い、その鍵を取り出すと、刻印も番号もなく、先端には黒ずんだ焦げ...
ウラシリ怪談

写真の家族

交番に届けられた財布の中には、数千円と古びた写真が一枚入っていたそうです。写真には、小さな子どもと若い母親が笑って写っていたといいます。署員は持ち主を探すため、写真を机に置いて確認していたそうですが、翌朝にはその子どもの顔が、ほんの少しだけ成長して見えたといいます……。数日後には、母親の髪も白く混じり、肩に手を置く人物が増えていたといいます。誰も触れていないのに、写真の家族だけが時間を進めていたそ...
ウラシリ怪談

署名のない落とし物

警察署の落とし物保管室には、数え切れないほどの傘や財布、眼鏡が並んでいたそうです。その棚の奥には、記録にないはずの鞄がひとつ、いつの間にか置かれていたといいます。鞄の中には、使用期限のない定期券や、宛名の消えた封筒が入っていたそうです。誰のものとも分からないのに、署員が近づくたび、定期券の顔写真だけがわずかに違って見えたといいます……。やがて、棚の中の“持ち主不明”の落とし物が、少しずつ数を減らし...