静かな異変

ウラシリ怪談

夏と冬のあいだに取り残された檻

記録的な暑さの夏と急に深まった冬のあいだに、ひとつの動物園だけ季節がずれたまま残されていたそうです…
ウラシリ怪談

脳の余白に浮かぶ文章

誰にも聞かれないはずの心の声が文字になった時、その余白に“誰のものとも言えない一文”が混じり始めたのだといいます…
ウラシリ怪談

鏡の前の空き枠

雨漏りが直され、大きな鏡と安全なパネルが取り付けられた集会所で、ときどき「一人分だけ多い映り込み」があるそうです……
写真怪談

雪の下で発電しているもの

畑の一部を潰して並べられたソーラーパネルは、真冬になると雪原に溶けて見えなくなる。吹雪の夜、その「見えない列」が、静かに息をし始めるまでは。
写真怪談

川面にだけある町

夕焼けに染まる住宅街の川沿いでだけ見える、「もうひとつの町」がある──水面に現れる自分そっくりの影と目が合ったとき、こちら側に残れる保証はどこにもない。
ウラシリ怪談

「壊れたインターネット」からの問い合わせ

世界じゅうで「インターネットが壊れた」と騒がれていたその日、壊れてからしか応答しない窓口がひとつだけ見つかったそうです…
写真怪談

青い街灯の足跡

残業帰りの冬の夜、あの青白い街灯の下を通るときだけ、どうしてか足もとを見るのが妙に怖い。
写真怪談

水面の境界を釣る人

木のそばにいつも同じ釣り人が立っている──そう気づいた日から、海の上に一本だけ“揺れない線”が見えるようになった。
写真怪談

夕暮れに腕を上げる木

夕焼け空を背に「万歳」する木は、境界を守る目印のはずだった──腕の数さえ数えなければ。
写真怪談

水平で、下り坂

着陸前の数分だけ、この歩道は「水平のまま下り坂」になる。増える手すり、列に混ざる影、そして灯りが開く白い顔——空港の見学通路で起きる微細な歪みの行き先は、いつもあちら側だ。
写真怪談

穴番の夕暮れ

夕暮れの公園で、数えきれない「穴」がゆっくりと目になった――余ったひとつは、今もあなたを探している。
写真怪談

富士を結ぶ糸

雲が晴れた午後、電線が富士の白に触れた瞬間、町じゅうの「もしもし」が上空へ吸い上げられた——私の声も、たぶん今あの線の上にある。
写真怪談

帰り火の外灯

夕暮れ前から点る、庭の皿灯。傘に映った“顔”は、家の中ではなく、外のどこかへ帰ろうとしていた——。
ウラシリ怪談

広いベンチの空席

丘の公園でベンチが広くなった日から、かならず一人分の空席が残るようになったという話がある…
ウラシリ怪談

塗りの端

黒い面に近づいた物だけが「ひと呼吸ぶん欠ける」現場記録と、納車後も続いた空白の連鎖について…
ウラシリ怪談

五時の残り香

夕方のチャイムが一時間早まっただけ…なのに、町には“もうひとつの六時”が残ったそうです…
ウラシリ怪談

最適座標

朝になるたび、無人駅の待合室で椅子の脚が白いチョーク線から数ミリだけはみ出していたそうです。昨夜、線の内側に戻して施錠したはずなのに、です。地元の学生が「窓の景色を一番よく見られる最適な位置」を提案し、係員がそこへ固定した日から、ずれは始まったといいます。ゴム足が擦った薄い粉が、窓の方へ細い帯を引き、日ごとに角度が数分だけ変わっていたそうです……。やがて椅子は、毎朝七時過ぎになると、光の差す向きとは関係なく壁の時計の下から伸びる黒い影が、窓枠と床目地と重なり合う一点に導かれるように止まったそうです。その時刻、通学の子が腰を下ろした瞬間、待合室の外の景色が少しだけ薄れ、窓の向こうに同じ椅子が遅れて映ったといいます。その椅子は実物と重なるように揺れ、やがて一つに溶け合いました。その瞬間、子の姿だけがふっと薄れ、声だけが窓の内側から遅れて響いたそうです。その後、椅子は空のまま残りましたが、窓の向こうには子が座ったままの影が貼り付いたように残り、掃除のたびに同じ高さに指の跡が増えていったといいます。椅子はもう動かず...
ウラシリ怪談

廊下に残る三本指の跡

管理掲示板に「共用廊下への私物放置はご遠慮ください」と追加の紙が貼られた日から、廊下の隅に置かれた物の向きが、朝だけ少しずつ変わったそうです。折りたたみ椅子は壁に背を向け、傘立ては手すり側へ寄り、空の段ボールは開口部が各戸の表札の方を向いた……そんな具合だったといいます。深夜、見回りに出た清掃員は、床のタイルに水の輪染みが数珠つなぎに残っているのを見たそうです。人の足跡ではなく、プラスチックの脚や台車の車輪が押した痕のようで、輪は各戸の前で必ず一度だけ止まり、次の戸口へ進んでいたといいます。ある晩、監視カメラに廊下の全景が映っていたそうです。二時を回っても誰も通らず、映像は静止画のように変化がないのに、翌朝には廊下一面の物が等間隔で並び、全ての戸口の前に一つずつ配置されていた……そんな報告が残っているそうです。置かれた物と戸口の隙間はぴたりと同じで、メジャーで測った管理人は「どの家も指三本ぶん」と記録したといいます。その頃から、玄関前の足拭きマットに、見知らぬ家具の脚の跡が薄く残る家が増えたそうです。跡は朝...