電線

写真怪談

空の結び目にいる人

昼の青空に伸びる電線とクレーンの交差点――その「空の結び目」に、いつの間にか一本増えている紐と、見上げた者だけが気づく“ぶら下がっている誰か”の話です。
写真怪談

富士を結ぶ糸

雲が晴れた午後、電線が富士の白に触れた瞬間、町じゅうの「もしもし」が上空へ吸い上げられた——私の声も、たぶん今あの線の上にある。
写真怪談

角度だけが追ってくる

無風なのに、アンテナの“角度”だけが私を追ってくる。意味のない受信の先に写っていたものは——。
写真怪談

灯の巣

葉がいっせいに同じ方向を向いた夜がある。瞬間、街灯の白は一度だけ弱くなった——写真を拡大しなければよかったと気づくのは、いつも少し遅い。
写真怪談

赤い月を結ぶ指

その夜、ふと見上げた月は血のように赤く、電線に縫い止められているように見えた。不思議と視線を逸らせず、じっと見続けているうちに気づいた。電線が震えている。風のせいだと思ったが、夜気は凪いでいた。よく見ると、一本の線の結び目に、白く細い指が絡まっている。指はぎこちなく動き、月を線に引き寄せるように引っ張っていた。それは人間の腕の長さでは届かない高さだった。だが確かに、そこに指がある。やがて月が少しず...
写真怪談

電線にぶら下がるもの

夕暮れの雲が低く垂れこめ、電線の黒い線が空を裂いていた。その下を歩いていた二人の通行人は、ふと立ち止まった。風もないのに、頭上の一本の電線だけが震えていたからだ。その揺れは徐々に大きくなり、やがて異様な音が混じった。——声だ。それも、電線の内部から漏れてくるような、低く途切れ途切れの囁き。言葉は判別できない。だが、聞いていると自分の名前を呼ばれている気がしたと証言している。次の瞬間、雲の切れ間に光...