落とし物

ウラシリ怪談

鍵束の異物

交番の保管棚には、拾得された数十本の鍵が金具で束ねられていたそうです。家の鍵、車の鍵、自転車の鍵……番号札が一つずつ付けられ、誰が見ても整然としていたといいます。しかしある夜勤の署員が数を確認すると、昨日より一本多くなっていたそうです。新たな届け出はなく、署員の誰も追加していないのに、束の中に見慣れない鍵が紛れていたといいます。不審に思い、その鍵を取り出すと、刻印も番号もなく、先端には黒ずんだ焦げ...
ウラシリ怪談

写真の家族

交番に届けられた財布の中には、数千円と古びた写真が一枚入っていたそうです。写真には、小さな子どもと若い母親が笑って写っていたといいます。署員は持ち主を探すため、写真を机に置いて確認していたそうですが、翌朝にはその子どもの顔が、ほんの少しだけ成長して見えたといいます……。数日後には、母親の髪も白く混じり、肩に手を置く人物が増えていたといいます。誰も触れていないのに、写真の家族だけが時間を進めていたそ...
ウラシリ怪談

署名のない落とし物

警察署の落とし物保管室には、数え切れないほどの傘や財布、眼鏡が並んでいたそうです。その棚の奥には、記録にないはずの鞄がひとつ、いつの間にか置かれていたといいます。鞄の中には、使用期限のない定期券や、宛名の消えた封筒が入っていたそうです。誰のものとも分からないのに、署員が近づくたび、定期券の顔写真だけがわずかに違って見えたといいます……。やがて、棚の中の“持ち主不明”の落とし物が、少しずつ数を減らし...
ウラシリ怪談

帳簿に載らぬ封筒

都内の落とし物保管所では、毎日のように財布や傘が積み上げられるそうです。その中に、帳簿に記録されない“封筒”が紛れ込むことがあるといいます。ある夜、当番の職員が机に置かれた封筒を開けると、中には千円札ばかりが詰まっていました。だがどれも片側が焼け焦げていて、指で触れると灰のように崩れたそうです。慌てて封を閉じ、引き出しにしまったものの、翌朝には封筒ごと跡形もなく消え、代わりに机の上に黒い手形が点々...
ウラシリ怪談

一致確率

ある都市で、駅や空港、店先の落とし物をAIが管理する仕組みが導入されたそうです。物品の色や形が蓄積され、見知らぬ誰かの財布や傘が、なぜか本人に返される事例が増えていったといいます。確認が曖昧でも、AIは一致確率として通知を出すようになったそうです。ある夜、通知が来るはずのない時間帯に、見覚えのない財布の画像と「取りに来い」とだけ表示されたLINE通知が届いたといいます。指定もないまま最寄りの駅に向...