昼下がり、赤いカウンターに置かれたラーメン。
湯気の立ち上るその姿に、私は妙な既視感を覚えた。
スープをすくうと、表面に浮かぶ油膜が人影のように揺れる。
偶然だと思いながら麺を持ち上げた瞬間、空気がざわりと震えた。
麺は口に運んでも減らなかった。何度すすっても、同じ量が器の中に戻っている。食べ進めるほどに、むしろ具材が増えていく。チャーシューは重なり合い、メンマは束になり、やがて器の縁から溢れそうになる。
「これはおかしい」とレンゲを沈めたとき、器の底に何かが映った。
それは私自身の顔――しかし、ほんの少し遅れて動いていた。
まるで水鏡に映る影が、別の時間を生きているかのように。
慌てて顔を上げると、店内は無人だった。
けれど器の中には、確かに“私ではない誰か”が沈んでいた。
その瞬間、麺が器から跳ね上がり、口を塞ごうと絡みついてきた。私は慌てて箸を置いたが……器の中の影は、まだじっと私を見上げている。
この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。