戻り刃(もどりば)の影

【ウラシリ】怪談

空港の売店から忽然と消えたハサミが、見つかったのは同じ売店の棚だったそうです。誰も動かしたはずはないのに、ほんの数時間、確かに存在が消えていたといいます。その間、空港全体がどこか重く沈み、空気の流れまで止まってしまったように感じられたそうです。

蛍光灯がふと滲み、放送の声が不明瞭に揺れた時、人々は「機械の不具合」と思っただけでした。しかし倉庫の隅に置かれていたハサミは、磨かれてもいないのに異様に澄んだ光を放ち、その刃先には人の姿が映り込んでいたといいます。そこに立っていたはずのない誰か――、雨粒に濡れたコートの影や、濡れた傘の柄のような形が一瞬きらめいては消えたそうです。

さらに奇妙なことに、売店のレシートに印字されていたはずの番号が、同じ時刻に二重に記録されていたとされます。片方には確かに「ハサミ」の購入記録が残っていたそうですが、その時間帯に客は一人もいなかったといいます。

遅延に苛立つ乗客たちには、それらは単なる偶然や混乱にすぎなかったようです。けれど、一部の係員はこう証言したそうです――「空港に響く人のざわめきが、ある瞬間すっかり消えて、残ったのはハサミの刃を擦るような金属音だけだった」と。

その音が現実にあったのかどうかは、誰も確かめていません。ただ、戻ってきたハサミには、確かに“そこにいなかったはずの人影”が映り込んでいたそうです。そして記録には残らぬ痕跡だけが、今も売店の隅に沈黙しているのかもしれません……そんな話を聞きました。

この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。

新千歳空港、紛失したハサミ発見 欠航遅延237便

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