節鳴り

写真怪談

整備工事の説明を兼ねた緑地の開放日は、拍子抜けするほど明るい昼だった。普段は外から覗くしかない敷地の奥まで入れると聞いて、私はずっと気になっていた蔦まみれの木を見に行った。

遠目には、ただ太い木が一本立っているように見えていたのに、近くまで行くと印象がまるで違った。幹は途中からいくつにも割れ、上へ突き上げた太い枝がそれぞれ別の生き物の腕みたいに盛り上がっている。蔦は絡みつくというより、一本一本をきつく巻いて留めていて、枝先からは葉の落ちた細い小枝が、割れた爪のように何本も突き出ていた。

木の真下へ入った瞬間、乾いた音がした。
ぱき、と一本。
少し間を置いて、また一本。
風はないのに、上のほうから節を鳴らすみたいな音が、左から右へ順番に落ちてきた。

見上げていたら、案内役のボランティアが「その木だけは、蔦を剥がさないことになってるんです」と言った。去年、遊歩道の整備で一度だけ胸の高さまで切ったことがあるらしい。すると、蔦の下から出たのは普通の樹皮ではなく、白っぽい筋が何本も並んだ、妙に湿った面だったという。木目ではなく、何かが内側で何度も折れ曲がった跡みたいな筋だったそうだ。

しかも翌朝、根元の落ち葉が五か所だけ深く沈んでいたらしい。
靴跡ではない。踵も土の崩れもなく、丸みのある窪みが半円を描いて並んでいた。
ちょうど、地面の下から大きな指先で押し上げ、押し損ねたみたいな形で。

話を聞いてから見ると、その木は蔦に覆われているというより、蔦で綴じられているように見えた。盛り上がった枝の節ごとに蔦が太く固まり、そのあいだから、わずかに黒い隙間が覗く。私は根元を回り込み、足元の落ち葉を見た。そこには確かに、湿った窪みが五つあった。昨日できたばかりみたいに縁が崩れていないのに、周囲の土だけがひどく乾いていた。

その時、頭上でまた、ぱき、と鳴った。
今度は上からではなく、いちばん高い枝から、幹の途中へ降りてくるみたいに。
ぱき。
ぱき。
ぱき。
音がひとつ下りるたび、幹の蔦がほんの少しだけ膨らみ、根元の落ち葉が内側から持ち上がった。私は反射的に後ずさったが、右足のつま先だけが抜けなかった。誰かに軽く踏まれているみたいに、靴の先端が土へ沈んでいた。

無理に引き抜くと、ずるりと湿った感触が返ってきた。見下ろしても、蔦の葉が二、三枚めくれただけで、何も出てはいない。けれど、さっきまで五つだった窪みのひとつが、私の靴先の位置へ半歩ぶんだけ寄っていた。

閉園の放送が流れ、私はそのまま木から離れた。振り返ると、枝先は来た時と同じように空へ開いていたが、いちばん右の一本だけ、ほんの少し内側へ折れていた。指を曲げたあとの、戻しきっていない角度に見えた。

帰宅して靴裏を洗った時、溝の奥から薄い緑の膜が五枚はがれた。蔦の葉にしては硬く、樹皮にしてはやわらかい。どれも半月形で、裏側には細い筋が何本も入っていた。乾くと色は白っぽく濁り、爪を切ったあとの欠片みたいに反った。

翌朝、その五枚は玄関マットの上にきれいに並んでいた。
昨夜は確かに洗面台のゴミ受けに捨てたのに。
しかも先の尖った側が、全部そろって家の中を向いていた。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

 

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