昼間の構内だった。
帰省シーズンに入ったというのに、人通りの少ない通路に並ぶコインロッカーは、妙に静かだった。空きロッカーを示す緑のランプばかりが等間隔に灯り、使用中を示すはずの赤は、数えるほどしか見当たらない。
この規模の駅なら、昼でも半分以上は埋まっているはずだ。
そう思って立ち止まった瞬間、奥の方から、低く鈍い金属音がした。誰かが扉を閉めたような音だったが、視線の先には誰もいない。
ロッカーの列を見渡すと、奇妙な違和感が胸に沈んでいく。
料金表示、番号、傷の位置――同じ型のはずなのに、ある一列だけ、どこか「古い」。塗装の色味がわずかにくすみ、ランプの緑も弱々しい。まるで、そこだけ時間が置き去りにされたようだった。
その列の中央付近、使用中でも空きでもない、どちらとも取れない沈黙の扉があった。ランプは点いているのに、色が判断できない。
近づいた瞬間、鼻の奥に、生乾きの布と埃が混じったような匂いが入り込んできた。
操作パネルの表示が、一瞬だけ乱れた。
「使用可能」
そう表示された直後、内部から、内側を叩くような音がした。
人の気配はない。
だが、確かに中からだった。
叩く音は規則的ではない。助けを求めるようでもなく、出してほしいとも違う。ただ、扉の存在を確かめるように、何度も、何度も。
周囲のロッカーはすべて静まり返っている。
帰省客の荷物で埋まるはずの場所で、そこだけが異様に「空いている」。
ふと、思ってしまった。
今年の年末、ここに預けられた荷物は、本当にすべて持ち主の元へ戻るのだろうか、と。
あの扉は、赤くならない。
人が使っても、使われていなくても。
だからこそ、入ったものは――誰にも「使用中」だと気づかれない。
もし年末、人気のないロッカーエリアで、
昼なのに静かすぎる列を見つけたら、
赤くならない扉には、近づかない方がいい。
そこは、帰れなくなったものを預かる場所なのだから。
この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。
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