気づいたら、どこにいるのかわからなかった。
買い物の帰り、駅から少し歩いただけのはずだったのに。
橋の上には人が歩いている。スマホを見ながら、会話しながら、まるで普通の道だ。
なのに、俺のいるこの場所だけが、異常に静かで、音がしない。自分の足音すら、コンクリに吸い込まれる。
上へ戻ろうとしても、階段がない。どこにも、出口らしきものがない。
通路のようなものを歩き回ったけど、全部行き止まりだった。何よりおかしいのは、
空が狭い。
ビルがせり出しているせいじゃない。空が、収縮しているみたいに、細く、裂け目みたいにしか見えない。
壁を叩くと、音が返ってこない。
時間もおかしい。2時だったはずの腕時計が、気づけば4時になっている。スマホは圏外。
「誰かいませんか!」と叫んでも、上の通路の誰も反応しない。……見えてないのか?
そんな時だった。
通路の奥に、誰か立っていた。
白っぽいスーツ、歪んだような顔。いや、顔が“逆”だった。顎が上で、頭が下に。
目が合った。と思った瞬間、また時間が飛んだ。
気づいたら、自分の部屋だった。服も荷物もそのままで、あの日の夜に戻っていた。
でも、あれから空が狭く感じる。
俺だけ、まだどこかの「下」にいるんじゃないかと思うことがある。
そして今も、たまに夢に出るんだ。あの“裏返った顔”が、橋の影から見てくる。
この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。