鉄骨の声

写真怪談

「なんであんな場所で遊んだのか、未だにわからないんだ」
そう語るのは、都内で働く30代の男性・翔太だ。彼は10年前、学生時代の仲間とともに、とある廃墟を探索したという。

それは、都市開発が途中で止まった再開発地区の端にぽつんと残っていた、白壁のボロ家だった。塗装は剥がれ、窓には板が打ち付けられていたが、唯一2階に繋がる鉄骨の外階段だけは残っていた。手すりは錆びており、所々にツタが絡まっていた。

問題の“異変”は、その階段で起きた。

「友人の村上が、調子に乗って2階に登ったんだ。そしたら、急に――階段の金属が鳴いたんだよ」

鉄が軋んだ、というレベルではない。
「やめて…」と、女の声が、階段から“発せられた”のだ。

村上は凍りつき、動けなくなった。だが、誰も助けに行けなかった。
次の瞬間、階段がぐにゃりと歪んだ。誰も触っていないのに、勝手に折れ曲がったのだ。
村上の足は挟まり、彼は悲鳴を上げた。階段に喰われたように。

「その時気づいたんだ。階段の一番上の手すりが、…歯みたいな形してたって」

逃げようとしたが、金属の壁が音もなく落ちてきた。1人が足を挫き、1人が失禁した。
翔太たちは命からがら逃げたが、村上は行方不明になった。

後日、警察が調べたが、人骨ひとつ出なかった。廃屋はすぐに更地にされた。
だが翔太には、今でも聞こえるのだという。夜道で、駅の階段で、駐輪場の隅で。

――「おりて」

鉄の音に混じって、微かに女の声が聞こえるのだと。
あの日、村上を飲み込んだ声と、まったく同じだった。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

 

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