午前十時の受注番号

ウラシリ怪談

ある生活雑貨チェーンのオンライン注文が、二カ月ほど止まっていたそうです。
原因は、物流を委託していた先の被害で、受注や出荷が回らなくなったからだといいます。

そして、再開は「12月15日 午前10時」と社内で決められていました。
時計に合わせて、画面の切り替えと、倉庫側の復旧作業と、溜まり続けた処理の解消を一斉に走らせる。
そういう、いつもの段取りだったそうです。

異変は、その直前から始まったと記録されています。
問い合わせ窓口に、同じ文面が何十件も届いたのです。
「注文していないのに、出荷完了の通知が来た」
「受注番号が、昨日と同じだ」
「午前10時ちょうどに、通知が二回鳴った」

担当者が確認すると、確かに、通知は飛んでいました。
止まっていた間に積み上がったはずの“処理待ち”が、午前10時の瞬間にまとめて吐き出されている。
そのはずでした。

けれど、出てきた受注番号の並びが、おかしかったそうです。
一つ進むごとに戻る。
戻るごとに増える。
増えるのに、注文内容は空白。
空白の欄だけが、埋まらないまま更新され続ける。

画面の右上には、配送倉庫の稼働状況が点灯していました。
緑。
正常。
……そう表示されているのに、倉庫からの応答ログが、まるで息を潜めたまま動かない。

その時、監視用のログに一行だけ残ったそうです。
「10:00:00 受注取り込み開始」
次の行も、同じ。
次も、同じ。
秒の桁まで一つも変わらない「10:00:00」が、列になっていく。

そして、列の途中から、受注番号が“人の名前”のようになったといいます。
ひらがなと数字が混ざり、最後だけが、決まって「0」。
注文者欄は空白のまま。
配送先欄も空白のまま。
ただ、備考欄だけに、短い文が増えていったそうです。

「届きました」
「まだです」
「開けました」
「何もありません」

発現は、倉庫から出た荷物で確かめられたといいます。
午前10時を過ぎてから、存在しないはずの出荷がいくつも立ち上がり、追跡番号が発行されました。
番号は実在し、配送会社の画面にも反映され、荷物は“集荷済み”になった。

しかし届いた箱の中身は、紙だけだったそうです。
納品書のような体裁で、商品名は空欄。
数量も空欄。
ただ、受注番号と時刻だけが印字されている。
「10:00:00」
それが、何枚も重なって入っていたといいます。

一番下の紙だけ、印字が違ったそうです。
受注番号の欄に、短い数字。
そして、時刻が「09:59:60」になっていた。
存在しない秒が、そこに刷られていた。

社内は、一度ログを切り戻したそうです。
復旧前の状態に戻して、改めて午前10時を待つつもりだった。
けれど、切り戻しの処理が、途中で止まった。
最後に残った画面は、注文一覧の先頭。

空白の注文が一件。
受注番号は、まだ確定していないはずの桁数で、すでに振られていたそうです。
商品名は空白。
配送先は空白。
備考欄だけに、こう書かれていたといいます。

「再開しました」

その後、同じ通知は止んだそうです。
紙だけの箱も、それ以上は出なかった。
ただ、12月15日 午前10時のログは、今も消せないまま残っているらしいのです。
削除しようとすると、必ず同じ一行が増える。
「10:00:00 受注取り込み開始」

そして、備考欄には、もう一言だけ追記されることがあるそうです。
「次は、あなたです」
……そんな話を聞きました。

この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。

良品計画、システム障害の「無印良品ネットストア」を全面再開、アスクルのランサムウェア被害で長期停止

良品計画、システム障害の「無印良品ネットストア」を全面再開、アスクルのランサムウェア被害で長期停止 | IT Leaders
良品計画は2025年12月15日、システム障害により停止していた同社のオンラインストア「無印良品ネットストア」について、全商品の受注/出荷業務を同年12月15日午前10時に再開したと発表した。物流業務を委託しているアスクルグループへのランサムウェア攻撃が原因で、同年10月から約2カ月にわたりサービスが機能不全に陥っていた。

 

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