再開するはずの時刻

ウラシリ怪談

ある大都市圏の通勤路線で、冬の朝に「送電設備の故障」が出たそうです。
午前五時二十五分。
掲示は一斉に同じ文言へ切り替わり、改札の向こうのホームだけが、薄い光のまま止まりました。

最初は、よくある遅延として扱われていました。
復旧の見込みは未定。
直通は中止。
案内放送は淡々と繰り返され、待合の椅子に人が増え、床の線に沿って列が太くなっていきました。

ただ、その駅の「時刻」だけが、少し変でした。
掲示の右上に出る現在時刻が、午前五時二十五分から動かないのです。
腕時計やスマートフォンの時刻は進んでいるのに、駅の装置だけが、同じ分のまま点滅していたといいます。

やがて、通知が来たそうです。
運転再開。午前七時過ぎ。
人々が顔を上げるのと同時に、掲示の下段が切り替わりました。
運転再開は七時九分。
その行だけが、妙に鮮明に残ったそうです。

その瞬間から、放送が少しだけ変わったといいます。
「送電設備点検」ではなく、「送電設備点呼」と読んだ。
次の放送では「点検」に戻った。
また次では「点呼」になった。
機械音声のはずなのに、言い間違いの揺れが、一定の間隔で混ざり続けました。

ホームの端にある監視モニタにも、似た揺れが出たそうです。
上りホーム。
人が映るはずの場所に、人の輪郭だけが残っている。
帽子の縁。肩の線。
けれど、本人は映っていない。
床の影だけが、遅れて一歩ぶん、すべるように残っていたといいます。

午前七時過ぎ、列車は再開したそうです。
発車ベルが鳴り、扉は開閉し、車内灯も点きました。
それでも、掲示の右上だけは、午前五時二十五分のまま戻らなかった。
そして、七時九分の「再開」表示だけが、何度も出ては消え、出ては消えたそうです。

駅員が後で確認したというログには、奇妙な記録が一つ残っていました。
運転見合わせの開始が、午前五時二十五分。
その同じ開始が、午前五時二十五分。
その同じ開始が、午前五時二十五分。
再開の時刻は、どこにも書かれていなかったといいます。

その朝、遅刻者の数はいつもより少なかったそうです。
なぜなら、来るはずだった「一人分」が、最初から数に入っていなかったからだとも言われます。
点検ではなく、点呼。
送電設備ではなく、呼び出し。
誰が呼ばれていたのかは、駅の装置だけが知っていたのかもしれません……そんな話を聞きました。

この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。

〖速報〗JR宇都宮線が運転見合わせ 送電設備が故障 湘南新宿ラインも運転見合わせ|埼玉新聞|埼玉の最新ニュース・スポーツ・地域の話題

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