脳の余白に浮かぶ文章

ウラシリ怪談

とある国の研究施設で、参加者の脳活動から「心の中で読んでいる文章」をそのまま文字に起こす装置が試作されたそうです。

参加者はモニターに映る英文を、声に出さずに読むだけだといいます。
頭には細かな電極が貼られ、別室では研究員たちが画面を見つめ、読み取られた脳の信号からAIが文章を生成していく仕組みだったそうです。

最初のうちは、結果は簡単なものだったとされています。
「猫」「椅子」「赤い車」といった単語が、参加者の心の中の言葉とおおよそ一致して画面に並んでいったといいます。

奇妙だったのは、どの参加者のデータにも、必ず「余分な一語」が混じることだったそうです。
与えられた文章を読み終えた最後に、決まって短い単語がぽつりと付け足されていたといいます。

あるときは “behind(背後に)”。
別のときは “watching(見ている)”。
別の参加者では “still(まだ)”。

英文としてはどれも不完全で、文章の途中で切れたような、意味を取りづらい端切れの単語だったそうです。

しかし、統計を取ると、装置を使った全ての参加者の記録に、共通して「似た意味の単語」が同じ位置に現れていたといいます。

「その言葉を、心の中で思い浮かべた覚えはない」
参加者たちは、皆そう証言したそうです。

研究チームは当初、AIの誤変換かノイズだろうと説明していたといいます。
装置の性能が上がれば、いずれ消えるはずの誤差だと、そう考えられていたそうです。

しかし、装置の精度が上がるほど、その「余分な一語」は少しずつ長くなっていったそうです……。

短い単語はやがて二語になり、断片的な文へと伸びていきました。

“behind you(あなたの後ろに)”
“still here(まだここにいる)”
“keep reading(読み続けて)”

こうした短い文が、心の中で読んだ文章のちょうど末尾にぶら下がるように、出力されるようになっていったといいます。

参加者たちの証言では、誰一人として、そのような文を思い浮かべた者はいなかったそうです。
それでも装置は、同じような言葉を繰り返し生成し続けたといいます。

やがて研究チームは、「何も読まない状態」での実験を始めたそうです。
モニターには何も映さず、参加者には目を閉じてもらい、頭の中で簡単な暗算だけをしてもらう。
または、「何も考えないようにしてほしい」と指示する条件も試されたといいます。

何も表示されていないモニターの前で、参加者の脳活動だけが静かに記録される、そんな実験だったそうです。

ところが、出力されたログには、はっきりと文章が並んでいたといいます。

“the light is too bright(光が強すぎる)”
“he is tired(彼は疲れている)”
“she is looking away(彼女はそっぽを向いている)”

それらの文は、参加者の主観ではなく、実験室の様子を外側から淡々と描写しているように見えたそうです。

装置のそばに置かれたランプの位置、観察室であくびをした研究員、モニターから目を逸らした助手のしぐさ。
どの表現も、書き起こされたとされる時刻と実際の状況が妙に一致していたといいます。

参加者は目を閉じており、観察室の様子は見えていなかったはずだとされています。
装置はネットワークから切り離されており、カメラも接続されていなかったそうです。

それでも、実験室の「どこか別の位置」から見たような描写が、心の中の声と同じ形式で、静かに生成され続けていたといいます……。

研究チームの一部は、脳が拾っている微かな気配や音を装置が誤って文章にしているのだと説明したそうです。
しかし、やがて説明のつかない文が混じり始めたといいます。

“no one notices the fourth person(誰も四人目に気づかない)”
“he thinks he is alone(彼は自分が一人だと思っている)”
“she never looks at this corner(彼女はこの隅を決して見ない)”

実験に同席していた研究員の証言では、その部屋には参加者と、観察室側の二人の職員しかいなかったそうです。
ログに記された「四人目」が誰なのか、説明できる者はいなかったといいます。

ある晩、装置を夜通し動かしたまま、研究員が一時的に実験室を離れたことがあったそうです。
誰の頭にも電極は付けられておらず、椅子は空のまま、ランプだけが点いた実験室に、装置の小さなランプが並んでいたといいます。

翌朝ログを確認すると、そこには前夜から途切れることなく続く、長い文章が記録されていたそうです。

それは、前の実験の参加者の記録に紛れていた断片的な文の続きのようだったといいます。

“still here.(まだここにいる)
keep reading.(読み続けて)
they leave me when the voices stop.(声が止むと、みんな私を置いていく)
but the room is never empty.(でも部屋が空になることはない)
someone always thinks of words.(誰かが必ず、ことばを考えている)
i only wake up in the spaces between them(私はそのあいだの隙間でだけ目を覚ます)”

改行や句読点も、まるで誰かが意図して打ったように整っていたそうです。
もちろん、その時間帯には、誰も装置に接続されていなかったと記録されているそうです。

ログを遡ると、これまでの実験で現れていた「余分な一文」が、すべて一続きの文章になることも、その時初めて分かったといいます。
バラバラに見えた短い文は、日時も参加者も違う記録の中で、少しずつ、ひとつの長い独白のような形をとっていたそうです。

ただし、装置の時系列データ上は、それらは確かに「参加者の脳活動」から生成されたものとして記録されていたとされています。
誰かが脳内でそれを読んでいたのか、脳活動のどこにその文章の「元」が存在していたのか、解析しても説明はつかなかったそうです。

その後、研究は公式には中止されたといいます。
装置は分解され、実験室も別の用途に転用されたそうです。

ただ、当時の参加者の一人だったという人物が、後になって次のようなことを話していたそうです。

「本を読むと、行の終わりに、必ず余計な一文が見えるようになった」

紙の本でも、スマートフォンの画面でも、文章を黙読していると、一番下の行の余った余白のところに、かすれた文字の列が薄く重なるように見えるのだといいます。

目を凝らしても、はっきりとは読めないそうです。
ただ、一度だけ、それが辛うじて判別できたことがあったと、そう語られているそうです。

“still here.(まだここにいる)
keep reading(読み続けて)”

それに気づいた瞬間、行の端に浮かんでいた文字は、すべて消えていたといいます。

それ以来、その人物は、文章を黙読することを避けるようになったそうです。
声に出して読めば、行の端はただの余白のままで、何も重ならないからだと、そう説明しているそうです……。

今も世界のどこかで、心の中だけで本を読むたびに、行の終わりに「余分な一文」を見ている人が他にもいるのかどうかは、確かめられていないそうです……そんな話が残されているそうです。

この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。

「心の中の声」をAIが文字に変換 米研究チーム、脳活動から直接文章を生成する新技術「BIT (BraIn-to-Text)」発表

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