角度だけが追ってくる

写真怪談

夕方の路地で、赤茶の外壁の家を見上げた。曇りガラスの向こうは空気だけが詰まっている。

風はないのに、屋根のアンテナがわずかに揃い、こちらの顔の傾きをなぞる。
軒の黒ずみに沿って、乾いた金属の触れ合う気配がひとつ。雨樋の腹が、歯で押されたみたいにごく薄く凹んだ。
曇りガラスの花模様が内側から膨らみ、誰でもない輪郭がぬめっと張り出して、すぐに引っ込む。
耳の奥に砂が流れ込むような圧だけが残り、意味はないのに、こちらを測る角度だけがぴたりと合ってくる。

一歩退くと、アンテナの先端が同じ角度で下がる。角を曲がると気配はぷつりと切れた。
数日後、通りかかったら、雨樋には実際に薄い凹みが残っていた。触れた指先が冷え、上を見上げる前に、なぜか首だけが勝手に“正しい角度”へ回った。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

 

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