とある自治体の「公園不具合の通報一覧」に、ひとつの項目が続けて記録されたそうです。
園内の時計が止まっていたので修理、数日後にはまた遅れているので再び修理……そうした短い文が、暑さの残る月の末まで途切れなかったといいます。
その頃から、公園では奇妙な報告が重なったそうです。
昼下がり、園路に伸びる影だけが、時計の分針と同じくらい遅れる、日なたの砂場だけが午後三時を合図に涼しくなる、ベンチに座るとスマートフォンの時刻が一度だけ一分戻る……どれも気のせいとして処理されたそうですが、一覧の「遅れ」は消えなかったとされています。
修理の人は、機械自体に異常はないと話したそうです。
盤面を外し、電源を取り替え、針を合わせても、園外の標準時から必ず少しだけ遅れる。
遅れは日を追うごとに一定で、夕刻にはぴたりと一分、翌週には二分……そうした“歩き方”だけが整っていたといいます。
月末、三度目の修理が行われた後、掲示板の案内文が入れ替わったそうです。
「修理により正常」——その下、ごく小さな文字で、時間の表に見えるものが薄く透けていたそうです。
数字は並んでいましたが、いくつかの目盛りの間隔が、わずかに詰まっていたといいます。
その日の夕方、公園にいた人の証言が残っています。
正時のチャイムが鳴った時、園内の空気だけが、音の余韻をもう一度なぞったそうです。
ベビーカーの車輪は砂に深く沈み、噴水の水は落ち切る前に一段だけ戻り、鳩の影は地面で二重になったとされています。
翌朝、通報一覧の「遅れているので再度」の行は、過去の日時に挿し込まれていたそうです。
前日までの印刷では空白だった箇所に、確かに一行増えている。
ただ、その行だけは、印字の黒が薄く、やや右に寄っていたといいます。
いまもその公園の時計は、外に比べて数分遅れることがあるそうです。
遅れは修正されるたび、周囲の影や音や記録の方に、うすく移っていくのだとか。
そして一覧の記録も、時々、数日前の紙にだけ増えていることがある……そんな話を聞きました。
この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。
道路・公園不具合通報システム 公園通報状況(令和7年9月分)
https://www.city.sanda.lg.jp/material/files/group/145/kouen202509.pdf

