穴あきの人

写真怪談

父の四十九日が過ぎ、私は自宅の裏庭を片づけはじめた。
父が生前に集めた植木鉢は、素焼きもプラも割れ欠けも、口を上にして積まれている。黒い鉢のラベルには破れた「30」。円盤状の受け皿、二つ穴の長方形のプラ板、白い袋——写真を一枚撮って、汚れた鉢から洗うつもりで近づいた。

袋をどかした手のひらが、内側から乾く。喉ではなく、皮膚の下がひりついた。
その夜、右手に小さな二つの凹みができた。長方形の穴の間隔に似ている。押しても痛くはない。翌朝には凹みが深く、滲んだ水が乾いて赤茶の粉が残った。素焼きの粉にそっくりだ。

片づけを続けるほど、体の表面に配置が写る。
受け皿の穴は肩甲骨の下へ、鉢底の丸は腰骨の脇へ。触れると、陶器を爪でこすったときの乾いた音が体内で鳴る。
どれほど水を飲んでも潤わないのに、裏庭の土に手を当てると楽になる。土は濡れ、凹みはひととき塞がる。家に入るとまた開く。

黒い鉢の「30」を見て、数えた。体じゅうの凹みは二十九。
数え漏らしを探して鏡の前に立つと、へそがわずかに広がっていた。三十。

夜半、腹の三十番目が熱を持ち、布団に丸い染みを作った。
染みの中心は土の匂いがする。指で押すと、内側から芽吹きの弾力が返ってきた。怖くなって裏庭に出て、白い袋を腹に当て、受け皿を上からそっと重ねた。何も聞こえない。ただ、体温がそのまま地面に抜けていく。

朝、シャツの内側に、細い緑が一本、立っていた。
皮膚の裏で根がひっかかる感触がある。抜くと体のどこかが欠けそうで、私は鉢の山のそばに座り込んだ。ちょうど顔が収まりそうな鉢を見つけ、ひっくり返して上からかぶる。丸い影の中は、不思議と呼吸が楽だ。
昼には、山のいちばん下に新しい受け皿が一枚、納まりがよく混ざっていた。私の体温で、少し柔らかくなっていることにも、誰も気づかない。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

 

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