高層の窓に降りてくるもの

写真怪談

高架下から見上げると、白い高層マンションの窓が並んでいた。
二十階あたりの窓に、何かが張りついているのが見えた。
人影のように見えるが、その高さからは細部など判別できるはずがない。

だが確かに、そいつの目は――真下に立つ自分と焦点を合わせていた。

慌てて視線を外し、次に見上げたとき、影はもう二十階にはいなかった。
代わりに、一階のガラス扉の内側で、まったく同じ姿勢をしてこちらを見ていた。
移動した、のではない。
ほんの一瞬で、階の違いそのものが飛ばされてしまったように思えた。

その直後、上空で窓がわずかに開いた。
二十階の窓から吹くはずの風が、なぜか頬を叩き、湿った吐息の匂いを運んできた。
距離も時間も無視して、あの影は確実にここにいる。

背筋が粟立ち、足がすくむ。
ふと視界の端に動きを感じて振り返った。
そこには、いくつもの窓から同時に覗き込む、同じ影が並んでいた。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

 

タイトルとURLをコピーしました