写真怪談

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見返す目、街角の鳩

昼下がりの交差点。信号待ちをしていると、欄干に一羽の鳩が降り立った。灰色の羽根に紫と緑の艶を帯びたその鳥は、やけに人間を見透かすような眼差しで、じっとこちらを見ていた。鳩は、片足をかしげながら首を小さく振る。まるで「見ろ」と言わんばかりに。視線を追うようにして、ふと頭上のカーブミラーを見上げた。そこには、ありふれた横断歩道を渡る人々の姿が映っていた。しかし、よく目を凝らすと違和感があった。歩いている人々の中に、背の低い影のような人影が混じっている。誰も気づかず、その影と肩をすり抜けていくのに、映像の中でだけ影は輪郭を濃くしていた。鳩がカッと目を光らせた瞬間、その影の顔が鏡越しにこちらを向いた。目鼻のない、真っ平らな顔。そして、次の瞬間、現実の横断歩道にはそれがいなかった。だが鳩だけがまだ、こちらを見ていた。まるで「知ってしまったな」と言うように。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。(c)TRUNK-STUDIO - 画像素材 PIXTA -
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掘り起こされた操縦席

工事現場のショベルカーが、ゴウンと音を立てて土をすくい上げていた。だが作業員のひとりがふと違和感に気づいた。──運転席に、人がいない。「おい、誰が動かしてんだ?」誰も答えなかった。確かに重機は稼働し、アームは正確に土を掬い取っている。だがキャビンの窓は空っぽで、ハンドルに手をかける影も見えない。その時、バケットが大きな石を持ち上げ、半ば崩れた木箱と共に、苔むした石の破片を露わにした。よく見るとそれは墓石の断片で、戒名らしき文字がかろうじて刻まれている。土の底から湿った声が響いた──「戻せ」。直後、無人のはずのキャビンの窓に、人の顔が押し付けられた。泥にまみれ、苦悶の表情で内側から必死に叩いている。作業員たちが震える指で墓石の断片を見返したとき、その顔と石に刻まれた戒名の響きが、奇妙に重なって思えた。やがてショベルカーは停止し、木箱も墓石の破片も土に戻された。だがその後も、キャビンのガラスには消えない手形が残り続けたという。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。
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緑の機影、戻らぬ道

そのバイク駐輪場は、昼間でもどこか薄暗く感じられた。緑色のカウルが目に刺さるようなスポーツバイクは、他のどの車体よりも新しく、艶やかだった。だが近づくと、風防ガラスに微かな曇りがあり、そこに映り込むはずの周囲の景色が、ほんの少しずれていた。覗き込むと、反射の中で歩く人々の顔がすべて見知らぬものになっている。しかも彼らは、こちらをじっと見返していた。次の瞬間、耳元でエンジンのアイドリング音が響き、バイクは誰も乗っていないのにゆっくりと動き出す。緑の機影は駐輪場を抜け、舗道へ、そしてどこかへ消えていった。その行き先を追った者は、例外なく二度と戻らなかったという。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。(c)TRUNK-STUDIO - 画像素材 PIXTA -
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午前3時11分発、ゆき先不明

深夜の大都市のバスターミナル、最終便のバスが発車した後の停留所は、ガラス越しの光とエンジンの残響だけが漂っていた。一台のバスが静かに入ってきた。時刻表示は午前3時11分。こんな時間の便など存在しないはずだ。乗降口が開き、中から降りてきたのは、黒いスーツの男。彼は何も言わず、停留所のベンチに腰を下ろすと、じっと目を閉じた。次の瞬間、まるでバスの車内から吹き出すように、同じ顔の人々がぞろぞろと降りてきた。それぞれが同じ服装、同じ体格、同じ仕草でベンチや地面に座り込み、静かに呼吸をしている。しばらくして、バスの運転手が無言で笛を吹くと、その全員が一斉に立ち上がり、再び車内へ戻っていった。そしてバスは滑るように走り去った。残されたのは、ベンチの上に置かれた一冊の時刻表。開いたページには、午前3時11分発の便がびっしりと並び、行き先にはすべて「∞」の記号が印字されていた。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。(c)TRUNK-STUDIO - 画像素材 PIXTA -
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耳の中の声

その象の絵は、ある日突然この壁に現れた。店の店主も、近所の誰も、描いたところを見ていない。だが、近くを通ると妙なことが起きる。耳元で、自分の名前を呼ばれるのだ。振り返っても誰もいない。しかし、黄色い象の耳の中に視線を向けると、ひび割れたペンキの奥に、細い穴があるのがわかる。一度、その穴に耳を近づけてみた。中から、知らない国の言葉のような囁きが、延々と続いている。それは決して意味を持たない音列のはずなのに、聞いているうちに脳が勝手に意味を組み立て始め、最後にこう聞こえた。――「見せてやる」瞬間、世界が暗転し、次に目を開けた時、私は壁の中にいた。前を歩くのは、何十頭もの象の群れ。全ての象の耳の穴から、人間の顔が半分ずつ突き出して、無表情のまま口をぱくぱくと動かしていた。その群れの最後尾に、青いバンダナを巻いた象がいて、その耳から突き出しているのは、私自身の顔だった。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。
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壁の奥から来る女

商店街の裏路地、壁一面に描かれた西洋の街並みの絵。色褪せながらも遠近感が見事で、通りすがりの人は思わず足を止めてしまう。ある夜、飲み会帰りの私は、その壁の前でバイクを止め、タバコを吸っていた。煙越しに壁を見ると、絵の中の通りを白い服の女がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。最初は誰かが絵に落書きしたのだろうと思ったが、次の瞬間、彼女は歩みを止め、こちらを真っ直ぐ見た。目が合った瞬間、背筋が氷のように冷たくなった。なぜなら、その瞳が壁の質感を失っており、まるで本物の人間のように濡れて輝いていたからだ。私が息を飲んだ時、絵の中の影がゆらりと伸び、女の体が壁から滲み出すようにこちら側へと溶け出した。後ずさる私の足に何かが触れた。振り返ると、そこには誰もいないはずの細い影が、私の足首に絡みついていた。翌朝、その壁を見に行くと、白い服の女はもう描かれていなかった。しかし、代わりにバイクの影の位置に、見覚えのある私の顔が描かれていた。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。
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白昼、風が連れてきた声

真夏の午後、照りつける日差しを避けるように、私は堤防沿いの道を歩いていた。視界の向こうまで続く青空に、白い雲がゆっくりと形を変えながら流れていく。道の脇にはベンチが並び、誰もいないその座席は、まるで見えない誰かが座るのを待っているようだった。ふと、二つ目のベンチのあたりで風が変わった。熱気を含んだ空気の中に、妙に冷たい流れが混じり、それが私の耳元で囁くように通り過ぎた。声のようにも聞こえたが、言葉は判然としない。ただ、どうしても「こっちへ来い」と言われた気がしてならなかった。足を止め、ベンチの方へ顔を向けた瞬間、強烈な既視感が胸を締めつけた。それは、この光景を私は以前にも見たという感覚ではなく——この光景の中に、私がずっといたという奇妙な確信だった。日差しは変わらず明るく、雲はどこまでも白く、しかしその奥に、薄い膜のような別の世界が重なって見えた。その膜の向こうで、ベンチには人が座っていた。髪は長く乱れ、顔は日陰に隠れている。それが、まるでこちらをじっと見つめているようで、私は息を呑んだ。瞬きをした瞬間、そ...
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路地裏の声

夜の仕込みを終えた帰り道、店の裏口から路地に出ると、青いゴミ桶が三つ並んでいた。昼間は何の変哲もないはずのそれが、今夜は妙に膨らんでいる。袋越しに透ける中身は、新聞紙や生ごみの他に、布切れのようなものが見えた。足を止めた瞬間、奥のゴミ桶が、かすかに動いた。――ゴトリ。金属の軋む音と共に、蓋の隙間から何かがこちらを覗いた。白目がほとんどなく、瞳孔ばかりの濡れた黒い眼球。次の瞬間、蓋が跳ね上がり、中から黒く濡れた手が、まるでこちらを捕まえようとするかのように伸びてきた。慌てて後ずさると、その手はゴミ袋を掴み、ずるずると何かを引きずり戻した。袋の中の布切れだと思っていたものが、人の顔の皮だったと気づくまで、時間はかからなかった。耳の奥で、かすれた声が囁く。「……次は、お前」この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。(c)TRUNK-STUDIO - 画像素材 PIXTA -
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狐面の奥のまばたき

夏祭りの人混みの中、鮮やかな朱の狐面を被った女がいた。目元の金縁から覗く瞳は、笑っているようにも、怒っているようにも見える。私はふと足を止め、その視線を受け止めた。次の瞬間、群衆のざわめきが遠のいた。周囲の色が褪せ、金魚すくいも綿あめの匂いも消える。残ったのは、私と女だけ。「この面、似合うと思う?」女の声は、耳元ではなく頭の奥に直接響いた。答える前に、面の口元が微かに動いた。そして、女の目が――瞬きをしたのだ。だが、瞬きをしたのは、面の方だった。気づけば女は消え、手元には見知らぬ狐面があった。それは、私の顔に吸い付くように貼りつき、外そうとするたび、内側から爪のようなものが肌を押さえた。次の夏祭りまで、この面は外れないだろう。そしてその時、瞬きをするのは――私の番だ。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。
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宙に残った影

蔦のからまる古い家の壁に、人影のような黒い形が張り付いていた。毎日同じ位置にあり、誰も近寄らなかった。ある夕方、その影がゆっくりと屋根の縁に手を掛けた。指が動くのがはっきり見えた。翌日、その家は解体され、更地になった。だが、夕方になると空中に同じ影が浮かんでいるのを、何人も見ている。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。
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電線にぶら下がるもの

夕暮れの雲が低く垂れこめ、電線の黒い線が空を裂いていた。その下を歩いていた二人の通行人は、ふと立ち止まった。風もないのに、頭上の一本の電線だけが震えていたからだ。その揺れは徐々に大きくなり、やがて異様な音が混じった。——声だ。それも、電線の内部から漏れてくるような、低く途切れ途切れの囁き。言葉は判別できない。だが、聞いていると自分の名前を呼ばれている気がしたと証言している。次の瞬間、雲の切れ間に光が差した。その光の中で、電線に何かがぶら下がっているのが見えた。四肢が異様に長く、関節が逆方向に曲がった、人間のような影。その顔は、雲と同じ色で輪郭が曖昧だった。そいつは頭を下にして揺れ、見上げた二人をまっすぐ見下ろしていたという。光が雲に飲まれると同時に、影も声も消えた。だが、その後数日間、その電線の下を通った人々が次々と原因不明の耳鳴りを訴えた。全員が「金属を引き裂くような音に、自分の名前が混ざっていた」と語っている。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。
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交差点の白い顔

あの日の雨は、いつまでも止まなかった。午後十一時を過ぎても交差点は明るく、広告塔の光が濡れた路面を何度も染め直していた。信号が青に変わった瞬間、車列が動き出す。だが、中央の黒いセダンだけが動かなかった。防犯カメラの映像では、運転席に白い顔が見える。輪郭は人間だが、目の位置が異常に高く、口は耳まで裂けていた。窓越しに見える皮膚は、陶器のような質感で細かく割れ、隙間から赤黒い光が脈打つように漏れていた。映像を拡大すると、その顔が窓に密着し、ガラスを内側から押しているのがわかる。頬骨が浮き、鼻梁が折れたように歪み、ひび割れは額から首まで広がっていく。車の周囲にいた通行人は、次の瞬間、全員が足を止めて振り向き、何も言わず背を向けて歩き去った。二度目の青信号に変わると同時に、黒い車も顔も消えた。だが、路面にはタイヤの水跡だけが残っていた。それも一分後には蒸発するように消え、水たまりには——車道の中央にはいなかったはずの——あの顔が映っていた。目も口も開かず、ただ、信号の色が変わるたびに割れ目の奥の光だけが脈打っていた...
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水面の向こうから

雨上がりの夕暮れ、路地の角に大きな水たまりが残っていた。その水面には、白い道路標示と赤いポール、そして空を覆う木々の枝葉が鮮明に映っている。だが、ひとつだけおかしなものがあった。──標識の下に、人影が立っている。その影は、実際の道路には見当たらない。水面の中だけに、じっと佇んでいた。頭からすっぽりとフードをかぶり、顔は濃い影に沈んでいる。ただ、肩から腰にかけて、細く長い腕がぶら下がり、水面の奥へとだらりと伸びていた。見つめていると、その腕がわずかに動く。水面の中の影が、こちらに向かって一歩、にじり寄る。その瞬間、足元のアスファルトがぞわりと湿り、靴底が冷たく沈んだ。反射的に足を引くと、水たまりの波紋は広がらなかった。ただ影だけが、こちらの足元にぴたりと寄り添い、水の底へと引きずり込もうとする。気づいた時には、足首までが水面の下に埋まっていた。見下ろすと、そこにはもう道路の映り込みなどない。暗く濁った深い水の中、無数の腕が揺れ、静かにこちらを待ち構えていた。次に瞬きをした時、私はもうその路地にはいなかった──...
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影を連れてくる看板

夜の住宅街の角に、木製の子ども看板が立てかけられている。笑顔が貼りつき、目の部分だけが白く抜けている。近所の人は知っている。昼はいつも少し傾いているのに、日が暮れると必ず正面を向く。ある晩、帰宅途中の男がそれを見た。子どもの足が舗道からわずかに浮き、地面には影が二つできていた。翌朝、看板の裏には何もない。影もひとつだけに戻っている。だが路面には小さな靴跡が、交差点の向こうまで続いていた。そこで途切れている。誰も、その先を確かめていない。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。
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斜路(しゃろ)の壁

都心の繁華街の片隅に、緩やかな坂道が一本ある。観光客は通らず、地元の人も足早に通り過ぎるだけ。その坂の途中、ある建物の外壁が数年前から不気味な模様で覆われていると噂になっていた。それは、黒地に青と白の抽象画。雲のようなもの、花のようなもの、そして、よく見ると都市の俯瞰図を反転したような断片が組み合わされていた。昼間は明るく、スケートボードの店か何かに見えた。だが、深夜、誰もいない時間帯にその建物を見上げると、「壁の奥に、もう一つの都市が見える」というのだ。証言者の一人はこう語った。「夜にその坂を登っていたら、突然、足元の傾きが変わった気がして。振り返ったら、来た道が“上”に向かってたんですよ。自分はずっと登っていたはずなのに」別の人物は、昼にその壁を撮影したあと、画像を確認すると、「壁に人の顔が浮かんでいた」と言う。それは、スカート姿の女性で、ちょうどその壁の前を通った記録が残っていた。しかし、彼女の影だけが「反対側」に伸びていた。太陽とは逆の方向に。最初の異変が記録されたのは、3年前の夏だった。坂道を歩い...
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窓の底

繁華街の裏手、ひっそりとした通り沿いに建つ三階建てのビル。その外観は無機質で、1階の全面ガラス窓からは事務所のような内部がうかがえた。夜は灯りも落とされ、冷たい反射だけが歩道をなめていたが──この窓が「おかしい」と気づいたのは、地元の大学に通う写真学生だった。彼はある課題のため、建物の夜景を撮り歩いていた。通りかかったそのビルの前でふと立ち止まり、三脚を立てる。だが、シャッターを切った直後、液晶に映し出された写真に奇妙な違和感を覚えた。──窓の奥に、水があった。事務所の中に湛えられた水ではない。“そのガラスそのもの”が、水面のようにたゆたっていた。反射の歪みではない。ガラスの内側には、泡が昇っていたのだ。異様だと思いつつも彼は、そのまま数枚を撮影した。翌日、大学でデータを確認した彼は、思わず息を飲んだ。撮ったはずのビルの1階部分に──巨大な「目」が写っていた。それは窓いっぱいを覆うほどに大きく、表面には鱗のような組織が浮かび、まばたきもしていない。ただ、じっとカメラのほうを見ていた。同級生に見せると、「CG...
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浴衣の五人

駅前の夏祭りの帰り道。人ごみから少し外れた歩道で、五人の女性が並んで立っていた。全員が浴衣姿で、後ろを向いている。髪をまとめ、帯を締め、誰一人としてこちらを振り返らない。最初は気にせず通り過ぎようとした。でも、近づくにつれ、何かがおかしいと気づいた。まず、五人とも、まったく同じ靴を履いていた。次に、帯の結び方までが全員一緒。浴衣の柄だけが違う。それでも祭りの格好としては珍しくない。だが──立ち止まったとき、自分の足元が急に濡れた。雨なんて降ってない。しゃがんでみると、彼女たちの下、歩道の隙間から濁った水がしみ出していた。しかもそれが、真ん中の女の足元だけから流れていた。その時、五人のうち一人が、ゆっくりと手を上げて、髪を直す仕草をした。……髪を直す指が、七本あった。一瞬で背筋が凍った。動けなかった。でも次の瞬間、隣の友人に肩を叩かれ、振り向いたら──五人はもういなかった。そこには乾いた歩道と、柵の向こうに灯りだけが残っていた。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。
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パイロンの列に

朝の通勤路に、いつからかカラフルなパイロンが並んでいた。工事の予定などなかったし、誰も設置しているところを見ていない。最初はオレンジばかりだったが、ある日から並びが変わった。黄色、緑、青、赤…きれいな配色だと思った瞬間、違和感に気づいた。配列が完全に「俺の通勤服の色の順」になっている。昨日ネクタイが青だった日は、青が中央にあった。今日はグレーのジャケットを着たら、最後尾のパイロンもグレーだった。その日から、誰にも話せなくなった。駅に向かうと、パイロンが1本、俺の行く先を向いて傾いている。音もなく、フェンスの内側からこちらを向いて。一度だけ、近づいてみた。パイロンの中、筒の奥に、黒い“目”が光っていた。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。