晩酌怪談 縄暖簾(なわのれん)の五番目 仕事帰り、同僚に呼ばれて店の前まで来た。赤と青の提灯がぬるい風に鳴り、ガラス戸の内側ではビールケースを積んだベンチに人が詰めて座っている。私は入り口の縄暖簾を撮ってから、手で割って中へ入った。縄は指先に冷たく、雨でもないのにじっとり濡れてい... 2025.10.19 写真怪談土地と風習日常の崩れ晩酌怪談
写真怪談 風鈴の底に閉じ込められた夏 風鈴は、風が鳴らすものだと思っていた。けれどこの街の骨董市で見つけた風鈴は、違った。透き通る硝子の中には、小さな魚のような形の気泡が浮かんでいる。覗き込むと、その魚がわずかに尾を振っているように見えた。風に揺れると、澄んだ音が響く――しかし... 2025.09.04 2025.10.12 写真怪談土地と風習日常の崩れ
写真怪談 喰声の鯱 この街に残る古い瓦屋根には、必ず黒い鯱しゃちほこが据えられている。それは「火除け」と呼ばれてきたが、本当は——人を喰らわせるためのものだった。江戸の頃、度重なる火事で町は焼け落ち、住民たちは「火の神」を鎮めようと生贄を差し出した。選ばれた者... 2025.09.11 2025.10.01 写真怪談土地と風習存在のゆらぎ日常の崩れ
【ウラシリ】怪談 一斉に瞬くもの 最初に違和感があったのは、電柱の根元に“黒い箱”がぶら下がっていたことでした。誰が設置したのか不明のまま、それは次々と数を増やし、やがて近隣の電柱すべてに同じものが揃っていたといいます。小窓付きで番号が振られていたため、キーボックスだろうと... 2025.07.19 2025.10.01 【ウラシリ】怪談土地と風習記録と痕跡
写真怪談 ガラスの外にいる 駅ビル地下の階段で、事故があったという話を聞いた。だが警備記録にも報道にも何も残っていない。ただ、監視カメラの記録だけが毎月更新されていない。なぜなら、その地点だけ、映像に異常が出るのだという。ガラス壁の向こうにいるはずの人物が、時折“中か... 2025.08.03 2025.09.29 写真怪談土地と風習存在のゆらぎ
写真怪談 立入禁止の遷し守(うつしもり) 安全担当だった先輩が教えてくれた。「うちの現場に一本だけ、廃棄できない看板がある。撤去日に必ず“次の工区”へ手配されるやつだ」理由は経費でも再利用でもない。その看板は、貼り出した瞬間から周囲の“境界”を吸い集める。関係者とそれ以外、内と外、... 2025.09.16 写真怪談土地と風習日常の崩れ機械知のほとり
写真怪談 消えた担ぎ手 夏祭りの熱気に包まれた商店街を、神輿が揺れながら進んでいた。肩を寄せ合い、掛け声を響かせる人々。その群れの中に、一人だけ顔の見えない男が混じっていた。背中には「護」の字が染め抜かれた法被。だがその字は他の布より黒く沈んで、まるで墨がまだ乾い... 2025.09.15 写真怪談土地と風習存在のゆらぎ
写真怪談 苔むす隙間から覗くもの 庭の隅に積み上げられた古いブロック。雨に打たれ、苔に覆われ、誰も気にも留めなくなったその塊を、ある夜ふと見てしまった。――苔の奥で、何かが瞬いた。まるで目のように、じっとこちらを窺っていたのだ。翌日、確かめようと近づいてみると、ブロックの隙... 2025.09.09 写真怪談土地と風習存在のゆらぎ日常の崩れ
【ウラシリ】怪談 記録されなかった声 ある夜、月面探査機が着陸を試みていたそうです。地球との通信は安定し、多くの人々がその瞬間を見守っていたといいます。けれど、着陸予定の数秒前、突如として通信は途絶えました。原因は不明のまま、技術者たちは手がかりすら得られなかったそうです。数時... 2025.06.06 2025.09.08 【ウラシリ】怪談土地と風習存在のゆらぎ
【ウラシリ】怪談 写された街 写真を一枚だけ送ってきた知人がいました。景色は平凡で、地方の国道沿いにあるどこにでもある商業地のようでした。しかし、数日後、その知人が行方不明になったそうです。彼の位置を探るため、画像解析に長けた人物が、その写真をAIにかけました。すると、... 2025.07.28 2025.09.08 【ウラシリ】怪談土地と風習時のひずみ機械知のほとり
【ウラシリ】怪談 波打ち際の鐘 島の古い鐘楼は、八十年前の爆風で砕け、そのまま放置されていたそうです。だが先月末、夜の海辺にいた漁師が、その鐘の音を聞いたといいます。音は次第に近づき、波打ち際でぴたりと止まったそうです。翌朝、浜には見慣れぬ石片が散らばっており、その一つに... 2025.08.09 2025.09.08 【ウラシリ】怪談土地と風習時のひずみ記録と痕跡
【ウラシリ】怪談 夜明けに濡れる女神像 古い商店街の入口に立つ女神像は、誰も水をかけていないのに、決まって夜明け前だけ濡れていたそうです。濡れているのは胸元から下、まるで誰かに抱き締められた跡のように輪郭を残して……。ある巡回員が深夜に通りかかったとき、水音と一緒に低い笑い声を聞... 2025.08.09 2025.09.08 【ウラシリ】怪談土地と風習存在のゆらぎ記録と痕跡
【ウラシリ】怪談 影を映す田の板 田んぼに立てられた縦型のソーラーパネルは、昼はただ静かに陽を受けていたそうです。しかし夜になると、黒い板が水面に影を落とし、その影が人の姿のように揺れたといいます……。農作業を終えた者がふと振り返ると、パネルの向きがわずかに変わっていたそう... 2025.09.06 2025.09.07 【ウラシリ】怪談土地と風習存在のゆらぎ機械知のほとり
写真怪談 水底に立つ森 湖の水面は不思議なほど静まり返っていた。風が吹いてもさざ波は立たず、ただ枯れ木だけが水中から真っ直ぐに伸びている。観光客が「美しい」と口にするその風景を、地元の古老は決して褒めなかった。「ここは森が沈んだ場所だ。木々はまだ立っておるが、根は... 2025.08.30 写真怪談土地と風習存在のゆらぎ時のひずみ
写真怪談 錆びた籠の中の囁き 庭の片隅に吊るされた、錆びの浮いた透かし彫りの鉄籠。その形は紅葉の葉を模しているが、じっと見つめていると葉の隙間から「目」がこちらを覗いているように思えた。ある夜、風もないのに鉄籠がわずかに揺れた。中から小さな声が漏れ出す。囁き声のようでも... 2025.08.18 写真怪談土地と風習存在のゆらぎ日常の崩れ
写真怪談 寄せ木の中に ある地方都市で起きた、奇妙な行方不明事件の記録がある。場所は、公園裏の資材置き場。古い楠(くすのき)の大木が何本も切り倒され、山のように積まれていた。梅雨前の草木が生い茂り、ほとんど誰も近づかない一角だった。失踪したのは、中学生の男子──裕... 2025.08.04 写真怪談土地と風習存在のゆらぎ記録と痕跡
【ウラシリ】怪談 波形の足跡 ある沿岸の町で、鹿の群れが海辺に佇んでいたそうです。それは、あの日の大きな地震の数時間前のことでした。四頭の鹿が海に背を向け、じっと波の音を聞いていたといいます。その後、遠く離れた沖合で強い揺れが起き、津波警報が出されました。翌朝には、鹿た... 2025.08.04 【ウラシリ】怪談土地と風習記録と痕跡