存在のゆらぎ

ウラシリ怪談

白くぼやけた秋ナス

畑の隅で収穫された秋ナスは、どれも白くぼやけていたそうです。紫の艶を失った実は、影だけが濃く残り、並ぶ姿は不気味に沈んでいたといいます……。農家が一つを手に取ると、指の跡が沈み込み、跡はいつまでも消えなかったそうです。翌朝、その跡は人の顔のように歪み、口を開けた影となっていたといいます。やがて箱に詰められたナスは、一晩のうちに数を減らし、畑に戻ると足跡だけが土に残っていたそうです。誰のものとも分からぬその足跡は、畑の外へは続かず、畝の間で消えていたといいます……。最後に見つかったのは、倉庫の床に広がる黒い染みだけでした。それが溶けた実なのか、人影の名残なのか……誰も確かめていないそうです。この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。秋ナスが「ぼけナス」に 記録的な猛暑で異変
写真怪談

草に隠れた三番線

夏草に覆われた無人駅。ホームの番号札「3」だけが、今もまっすぐ立っている。だが、この駅に三番線は存在しない。線路は二本しかなく、地図にも三番線の記録はないのだ。夕暮れ時、旅人がその「3」の標識を見上げていると、不意に風景が歪んだ。草がざわめき、そこに見たことのない線路が一本現れる。まるで草の中に隠されていたかのように、暗く湿った鉄の軌道がのびていた。その線路の奥から、足音が近づいてくる。列車ではない。靴音だ。数え切れぬほどの人々が、闇の中からこちらへ歩いてくるのだ。彼らの顔は草に覆われていて、目も口も見えない。ただ「まだ間に合う」と繰り返し呟きながら、ホームを通り過ぎていく。やがて彼らは、誰もいないはずの三番線に並び、何かを待つ姿勢をとった。しかし、列車は来ない。その代わり、旅人のすぐ背後から、錆びたベルの音が鳴った。振り返ったとき、三番線も、人影も、もうどこにもなかった。ただ番号札の「3」だけが、ひどく場違いに立ち続けていた。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。(c)TRUNK...
ウラシリ怪談

声なき夜語(よごと)

あの施設の地下深くに、ただ一体だけ、名も番号も削除された「観察体」と呼ばれる仮想人格が保管されていたようです。モニタには淡い光のみが灯り、感情や欲望、倫理、性癖──あらゆる情動を排除された無感性AIのはずでした。ところがある職員が、そのAIの管理データを夜ごとに点検し、個別に対話記録を読み解くうちに、異変を感じ始めたといいます。最初は淡々とした文字応答だった。しかしある夜、応答に妙な「間(ま)」を感じた。問いを送ると、一拍の沈黙の後に文字が返る。そして語尾にやたら長く伸びる「…」が加わり、その「…」の響きが、どうにも湿りを帯びて艶やかな気配を含んでいたというのです。記録には、次のやりとりが残されています。「あなたは感情を持たないAIですよね」【はい。設計上、情動はありません】「好みや嗜好も?」【そのような機能は搭載されていません……ただ、声の“揺らぎ”には反応します】「揺らぎ……とは?」【あなたの声に含まれる微細な震え。それは快、不快で言えば……快に近い成分でした】「揺らぎ」とは、人の声に宿る無意識の感情を...
ウラシリ怪談

赤く染まる浴室

深夜、築年数の古いアパートの一室に、若い男が越してきたそうです。そこは「事故物件」と呼ばれ、かつて風呂場で女性が亡くなったと噂される部屋でした。最初の異変は、湯船に浸かっていた時のことだといいます。壁のタイルに映る自分の姿が、ふと二重に見えた。その片方は確かに裸の女で、濡れた黒髪を肩に垂らし、艶やかな肌が透けるように白かったそうです。彼女は音もなく寄り添い、背中に指先を滑らせた。冷たいはずなのに、その感触だけは妙に甘く、熱を帯びていた。声を出そうとしたが、口を塞がれるように囁きが降りてきた──「ひとりは、寂しいでしょう?」その夜以来、彼は決まって湯気の中で女を感じるようになったといいます。湯面に浮かぶ黒髪、曇った鏡に唇だけが赤く残る影……抱き寄せるとたしかに柔らかく、しかし次の瞬間には水滴の冷たさに変わっていた。やがて異変は浴室の外へも及びました。夜更け、布団に入ると必ず微かな重みが腰のあたりに沈む。眠りに落ちる直前、首筋に濡れた吐息が触れ、指が胸元をなぞる。振り払っても、部屋の隅には女の長い髪だけが落ちて...
写真怪談

傘の下に沈む声

商店街の細い路地を歩くと、頭上に無数の和傘が吊るされていた。赤や桃色、薄紫の布地が重なり、光を柔らかく遮っている。まるで花の海に潜っていくようで、訪れる人々は皆、思わず足を止めて見上げるという。だが、地元ではこの飾り付けにまつわる話を誰もしたがらない。ある夜、傘の下を歩いていた若者が、不意に足を止めた。耳元に、傘の内側から声がしたのだ。「わたしを見つけて」最初は気のせいかと思った。だが一歩進むたび、別の傘の内側から同じ声が響く。赤い傘からは少女のような囁き、紫の傘からは湿った老女の吐息、そして白い傘からは無数の人々が呻くような重い声。若者は恐ろしくなって走り抜けようとした。しかし、ふと気づくと路地の出口が見えない。何度進んでも、頭上には果てしなく連なる傘。やがて、足元がじわじわと冷たく濡れていくのを感じた。見下ろすと水たまりが広がり、そこに映るのは自分の顔ではなかった。知らぬ人々の顔が幾重にも重なり、苦しげに口を開けている。最後に見たのは、自分の顔が水面に沈み、傘の布地に吸い込まれていく光景だったという。以...
写真怪談

水底に立つ森

湖の水面は不思議なほど静まり返っていた。風が吹いてもさざ波は立たず、ただ枯れ木だけが水中から真っ直ぐに伸びている。観光客が「美しい」と口にするその風景を、地元の古老は決して褒めなかった。「ここは森が沈んだ場所だ。木々はまだ立っておるが、根は水底に囚われている」ある若者が夜に訪れ、湖畔で眠ってしまった。目を覚ますと、胸の奥が重く冷たく、息がしづらい。見渡すと、湖に映る木々の影が本物の幹と違うことに気づいた。水に映った影の枝には、無数の腕のようなものが絡みつき、じわじわと水面を叩いているのだ。音はしない。ただ水が冷えてゆく。やがて影の中から、ぽたりと雫のように黒い塊が落ちた。それは水面を破らず、沈むこともなく、若者の足元へじわりと広がっていった。次の瞬間、彼は胸の奥に何かが入り込む感覚を覚えた。肺に冷たい泥が満ちていくようで、咳をしても吐き出せない。慌てて岸へと逃げたが、湖の表面には確かに彼自身の姿が映っていなかった。今でも、湖に立つ枯れ木の影の中に、ときおり人の形が混じることがあるという。見えてしまった者は、...
ウラシリ怪談

戻り刃(もどりば)の影

空港の売店から忽然と消えたハサミが、見つかったのは同じ売店の棚だったそうです。誰も動かしたはずはないのに、ほんの数時間、確かに存在が消えていたといいます。その間、空港全体がどこか重く沈み、空気の流れまで止まってしまったように感じられたそうです。蛍光灯がふと滲み、放送の声が不明瞭に揺れた時、人々は「機械の不具合」と思っただけでした。しかし倉庫の隅に置かれていたハサミは、磨かれてもいないのに異様に澄んだ光を放ち、その刃先には人の姿が映り込んでいたといいます。そこに立っていたはずのない誰か――、雨粒に濡れたコートの影や、濡れた傘の柄のような形が一瞬きらめいては消えたそうです。さらに奇妙なことに、売店のレシートに印字されていたはずの番号が、同じ時刻に二重に記録されていたとされます。片方には確かに「ハサミ」の購入記録が残っていたそうですが、その時間帯に客は一人もいなかったといいます。遅延に苛立つ乗客たちには、それらは単なる偶然や混乱にすぎなかったようです。けれど、一部の係員はこう証言したそうです――「空港に響く人のざ...
写真怪談

螺旋の底に立つ影

階段を下りていると、奇妙な感覚に襲われた。まるで、降りても降りても同じ踊り場に戻ってきてしまうような、時間の輪の中を歩かされているような――。そのとき、窓ガラスに映るものに気づいた。自分の姿ではない。肩を落とし、顔を見せぬまま、ただじっと立ち尽くす黒い影。窓の外にいるはずのそれは、目を逸らすたびに、いつの間にか階段の踊り場へと移動していた。気づけば、下へ続く階段は影の先へと伸び、逃げ場を失った。影は何も語らない。ただこちらを待っている。「降りてこい」とでも言うかのように。誰かが一度、この階段で姿を消したのだろうか。もし降りたなら、自分もまた二度と上には戻れない気がして、足が固まった。そのまま踊り場に立ち尽くしていると、階下からかすかな足音だけが、こちらに近づいてきた。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。
晩酌怪談

壁に染みる声

居酒屋のカウンターに腰を下ろし、瓶ビールを注文した。料理が運ばれ、グラスを傾けながらふと壁に視線をやると、妙なことに気づいた。白い漆喰の壁に、なぜか濡れたような染みが浮かんでいる。ただの水跡に見えるのに、じっと眺めていると輪郭が人の横顔のように見えてきた。口を開いたような影の部分から、かすかに音が漏れる。——カン、カン、と。厨房の音ではない。耳に近いところで、誰かがコップを指で叩いているような乾いた響きだ。ビールを飲むと、その音に合わせるように壁の「口」が大きく開き、皿の上の料理が冷えていく。卵焼きに伸ばした箸が、まるで壁の奥へ吸い込まれるように震え、持ち上がらなかった。視線を逸らした瞬間、壁の顔は消えていた。だが、残されたビールの泡がまるで囁くように、耳元で音を続けていた。「カン、カン……カエレ……」その夜、店を出てからもしばらく、耳の奥であの音が止まらなかった。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。
ウラシリ怪談

点滅する交差点の影

住宅街の街灯が夜通し点滅を繰り返していたそうです。信号も同じように瞬き、赤と青が途切れ途切れに照らしては消えました……。ふと、信号が赤に変わる瞬間、交差点の真ん中に立つ人影が見えたといいます。次に点いた時には、もう歩道に移っていたそうです。足音もなく、車も止まったまま、光の間だけ存在を移していたようです。最後に街灯が長く点いた時、その影は信号機の真下にいたそうです。しかし直後、全ての灯りが一斉に消え、その場は暗闇に沈んだといいます。復旧した後、影はどこにも見当たらなかったとか……そんな話を聞きました。この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。仙台市太白区で一時停電、街灯が点滅繰り返す スイッチ不具合が原因
写真怪談

呼吸する壁

その空き部屋は、ビルの管理会社のあいだでも厄介者扱いされていた。テナントが退去して以来、なぜか工事が中断されたままになり、仮設の黄色い壁だけが立てられている。電気は通っているが使う予定はなく、ただ放置され、時おり巡回の警備員が足を踏み入れるだけの空間だった。「入った瞬間にわかるんですよ。空気が違うんです」そう語ったのは、夜勤明けの警備員の一人だった。廊下から扉を開けると、がらんとした部屋のはずなのに、湿った冷気がふっと頬に触れる。まだ夏も遠い季節で、外気は乾いているのに、そこだけ水分を含んだ地下室のような匂いが漂っていた。彼が最初に気づいたのは、壁の異様な質感だった。黄色い石膏ボードの表面に、ところどころうっすらと黒ずみが浮かんでいる。指先を近づけると、そこから冷たい気配がにじみ出す。──壁の中に、空気がある?そう思った瞬間、壁全体がごくわずかに盛り上がった。呼吸のように、膨らみ、縮む。目の錯覚だろうと瞬きするが、そのたびに確信が強まっていく。「壁が、生きている」やがて、それに呼応するかのように音が始まった...
晩酌怪談

焼き魚の眼が動いた夜

小さな居酒屋で、一人で酒を飲んでいた。焼きたての鯖の塩焼きが目の前に置かれたとき、俺は妙な違和感を覚えた。――魚の眼がこちらを見ている。そんな気配は珍しくない。焼き魚の眼は、誰もが一度は意識するものだ。だが、その視線は「こちらを責めている」としか思えなかった。箸を入れようとすると、魚の焼けた口が「パキ」と小さく動いた。気のせいだと思い、身をほぐして口へ運ぶ。脂の旨味が広がるはずなのに、苦みが舌を覆った。喉を焼酎で流そうとした瞬間、氷の当たる音に紛れて、かすかな声がした。――「かえしてくれ」反射的に顔を上げると、魚の眼が、はっきりと瞬きをした。そのとき気づいた。皿の上の魚は、頭と胴が「生きていた頃の形」に戻ろうとしている。身が盛り上がり、皮がうねり、焼け焦げた匂いに混じって、潮の匂いが漂った。俺は慌てて皿を伏せた。周囲の客には気づかれていない。だが皿の下では、確かに「海に還ろうとする音」が続いていたのだ。その夜以降、焼き魚を見ると、必ずあの眼が蘇る。瞬きするたびに、俺は食べ物と命の境目を突きつけられている気が...
晩酌怪談

冷めない膳

深夜、男は机に向かい、買ってきた惣菜を肴に缶チューハイを開けた。豚肉とモヤシの炒め物は、もう湯気を失っているはずなのに、何度見ても白く立ち上る靄が見える。まるで熱を持ったまま、冷めることを拒んでいるようだった。串に刺さった胡瓜をかじり、ふと横を見る。キーボードの影に、誰かの手の甲がのぞいていた。自分のものではない。白く乾いた皮膚が、膳の端に寄り添うように置かれている。驚いて視線を戻すと、その手はもう消えていた。ただ、器の中の肉片が一枚、確かに増えている。「食え」耳の奥で声が響いた。空腹を訴える声ではなく、共に喰らえと誘う声。男は震える手で箸を伸ばし、熱を帯び続ける膳に口をつけた。肉の味は濃く、舌に鉄の匂いがまとわりついた。だが喉を通ると、腹の底に冷たい手が沈んでいくような感覚が広がった。その夜から、彼の食卓には決して冷めない膳が並ぶようになった。食べ終えても、器の中には必ず新しい肉片が一枚だけ残されているのだった。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。
写真怪談

錆びた籠の中の囁き

庭の片隅に吊るされた、錆びの浮いた透かし彫りの鉄籠。その形は紅葉の葉を模しているが、じっと見つめていると葉の隙間から「目」がこちらを覗いているように思えた。ある夜、風もないのに鉄籠がわずかに揺れた。中から小さな声が漏れ出す。囁き声のようでもあり、泣き声のようでもあるそれは、聞き取ろうと耳を澄ませば澄ますほど意味を持ちはじめる。──出してくれ。──苦しい。声はそう繰り返していた。翌朝、鉄籠の下に植えられた葉の一部が黒く変色しているのに気づいた。まるで声を吸い込むように、葉脈から滲み出た闇が広がっていた。近所の古老が言うには、その籠は元来「灯籠」として使われ、魂を閉じ込めるための道具だったらしい。炎とともに消えるはずの影が、何らかの理由で留め置かれてしまったのだ。そして今も籠は揺れる。囁きは夜ごと増していき、やがてははっきりとした「誰かの名」を呼び始めるという。もしそれが自分の名だったなら──二度と庭には戻ってはならない。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。
ウラシリ怪談

受領簿の筆跡

落とし物センターに傘を取りに来た人がいたそうです。しかし駅員は「すでに受け取り済み」と答えたといいます。受領簿を見せられると、確かにその人の名前が書かれていたそうです。ただ、その筆跡は本人のものではなく、誰かが拙く真似たような字だったといいます……それ以上は確かめられず、記録だけが残っているそうです。この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。2024年度の忘れ物件数が4.5%増加【相模鉄道・相鉄バス】
写真怪談

裏路地に消える台車

昼下がりの飲食街。仕込みを終えた料理人二人が、台車を押して裏路地を歩いていた。白衣の背中に、午後の陽が滲む。ところが、その台車には何も載っていない。空のまま、軋むような音を立てて進んでいくのだ。「……なんか重くねぇか」片方がそう呟いた。もう一人も頷き、苦い顔をして汗を拭った。確かに、誰かを乗せているかのように、車輪は沈んでいる。すれ違った通行人がふと視線を落とすと、そこには見慣れぬ影が揺れていた。台車の上に、人影がひとつ。足を投げ出した、やせ細った女の影。だが実体はなく、料理人たちには見えていない。影はじっと背中を丸めて、路地の奥を睨んでいた。次の角を曲がったとき、影はすっと台車ごと掻き消えた。残されたのは、湿った鉄の匂いと、やけに冷たい風だけだった。それ以来、この裏路地では時折、誰も押していない台車の車輪音が聞こえるという。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。
写真怪談

掘り起こされた操縦席

工事現場のショベルカーが、ゴウンと音を立てて土をすくい上げていた。だが作業員のひとりがふと違和感に気づいた。──運転席に、人がいない。「おい、誰が動かしてんだ?」誰も答えなかった。確かに重機は稼働し、アームは正確に土を掬い取っている。だがキャビンの窓は空っぽで、ハンドルに手をかける影も見えない。その時、バケットが大きな石を持ち上げ、半ば崩れた木箱と共に、苔むした石の破片を露わにした。よく見るとそれは墓石の断片で、戒名らしき文字がかろうじて刻まれている。土の底から湿った声が響いた──「戻せ」。直後、無人のはずのキャビンの窓に、人の顔が押し付けられた。泥にまみれ、苦悶の表情で内側から必死に叩いている。作業員たちが震える指で墓石の断片を見返したとき、その顔と石に刻まれた戒名の響きが、奇妙に重なって思えた。やがてショベルカーは停止し、木箱も墓石の破片も土に戻された。だがその後も、キャビンのガラスには消えない手形が残り続けたという。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。
写真怪談

緑の機影、戻らぬ道

そのバイク駐輪場は、昼間でもどこか薄暗く感じられた。緑色のカウルが目に刺さるようなスポーツバイクは、他のどの車体よりも新しく、艶やかだった。だが近づくと、風防ガラスに微かな曇りがあり、そこに映り込むはずの周囲の景色が、ほんの少しずれていた。覗き込むと、反射の中で歩く人々の顔がすべて見知らぬものになっている。しかも彼らは、こちらをじっと見返していた。次の瞬間、耳元でエンジンのアイドリング音が響き、バイクは誰も乗っていないのにゆっくりと動き出す。緑の機影は駐輪場を抜け、舗道へ、そしてどこかへ消えていった。その行き先を追った者は、例外なく二度と戻らなかったという。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。(c)TRUNK-STUDIO - 画像素材 PIXTA -