存在のゆらぎ

写真怪談

赤い月を結ぶ指

その夜、ふと見上げた月は血のように赤く、電線に縫い止められているように見えた。不思議と視線を逸らせず、じっと見続けているうちに気づいた。電線が震えている。風のせいだと思ったが、夜気は凪いでいた。よく見ると、一本の線の結び目に、白く細い指が絡...
写真怪談

消えた担ぎ手

夏祭りの熱気に包まれた商店街を、神輿が揺れながら進んでいた。肩を寄せ合い、掛け声を響かせる人々。その群れの中に、一人だけ顔の見えない男が混じっていた。背中には「護」の字が染め抜かれた法被。だがその字は他の布より黒く沈んで、まるで墨がまだ乾い...
晩酌怪談

座るはずのない客 ― カウンターの常連

唐揚げをつまみ、ビールを飲み、何気なく撮った一枚。仕事帰りのありふれた光景のはずだった。だが写真を見返すと、卓上に奇妙な「濡れた手の跡」が浮かんでいた。油染みでも水滴でもない。人間の掌の形をした痕が、唐揚げの皿にかぶさるように残っている。気...
写真怪談

草に隠れた三番線

夏草に覆われた無人駅。ホームの番号札「3」だけが、今もまっすぐ立っている。だが、この駅に三番線は存在しない。線路は二本しかなく、地図にも三番線の記録はないのだ。夕暮れ時、旅人がその「3」の標識を見上げていると、不意に風景が歪んだ。草がざわめ...
【ウラシリ】怪談

官邸の夜会議

その夜、首相官邸の巡回記録には、執務室の前で足音が二度止まっていると記されています。扉の向こうでは、予定にない会議の声が幾層にも重なり、壁の奥からにじむように響いていたそうです。鍵は掛かっておらず、灯りは消えたまま。警備員がノブを押すと、冷...
写真怪談

苔むす隙間から覗くもの

庭の隅に積み上げられた古いブロック。雨に打たれ、苔に覆われ、誰も気にも留めなくなったその塊を、ある夜ふと見てしまった。――苔の奥で、何かが瞬いた。まるで目のように、じっとこちらを窺っていたのだ。翌日、確かめようと近づいてみると、ブロックの隙...
【ウラシリ】怪談

記録されなかった声

ある夜、月面探査機が着陸を試みていたそうです。地球との通信は安定し、多くの人々がその瞬間を見守っていたといいます。けれど、着陸予定の数秒前、突如として通信は途絶えました。原因は不明のまま、技術者たちは手がかりすら得られなかったそうです。数時...
【ウラシリ】怪談

100億年に1秒の影

もしかすると、聞かなかったほうがよかった話かもしれません。ある研究施設で、世界最高精度の時計が開発されました。 その誤差は「100億年に1秒」。光格子時計と呼ばれるその装置は、時間の流れを極限まで正確に測定できるといいます。地震予測や津波観...
【ウラシリ】怪談

森に誘う服

聞いた話ですが、とある古着屋に、奇妙な「再流行」が起きたことがあったそうです。店の片隅にあったのは、10年以上前の「森ガール」スタイルの服。 誰も手に取らなかったその服が、ある時期から突然、若者たちの間で売れ始めたといいます。買っていった客...
【ウラシリ】怪談

踊り場の教室

深夜、集合住宅の階段を降りた住人が、いつもとは異なる踊り場に出たと報告されています。そこには扉があり、覗けば内部が教室のように机と黒板が並んでいたというのです。本来あるはずの自室の位置と違う空間へ、一歩踏み込んだだけで入口が存在していたとい...
【ウラシリ】怪談

夜明けに濡れる女神像

古い商店街の入口に立つ女神像は、誰も水をかけていないのに、決まって夜明け前だけ濡れていたそうです。濡れているのは胸元から下、まるで誰かに抱き締められた跡のように輪郭を残して……。ある巡回員が深夜に通りかかったとき、水音と一緒に低い笑い声を聞...
【ウラシリ】怪談

錆びた道の呼び声

春の夕暮れ、下校途中の少女が姿を消したそうです。家まであと数百メートル、道沿いには小さな畑と古いガードレールが並んでいたといいます。その道を通った別の児童が、「誰もいないのに、呼びかける声がした」と話していました。声は風の向きと関係なく、一...
【ウラシリ】怪談

迎えを待つ椅子

認知症カフェの一角に置かれた“模擬バス停”は、いつも同じ角度で椅子が揃っていたそうです。訪れる人が座っても、立ち去った瞬間には必ず元の向きに戻っていたといいます。ある日、閉店後の防犯カメラに、誰もいないはずのバス停で椅子がゆっくりと回転し、...
【ウラシリ】怪談

受領簿の筆跡

落とし物センターに傘を取りに来た人がいたそうです。しかし駅員は「すでに受け取り済み」と答えたといいます。受領簿を見せられると、確かにその人の名前が書かれていたそうです。ただ、その筆跡は本人のものではなく、誰かが拙く真似たような字だったといい...
【ウラシリ】怪談

点滅する交差点の影

住宅街の街灯が夜通し点滅を繰り返していたそうです。信号も同じように瞬き、赤と青が途切れ途切れに照らしては消えました……。ふと、信号が赤に変わる瞬間、交差点の真ん中に立つ人影が見えたといいます。次に点いた時には、もう歩道に移っていたそうです。...
【ウラシリ】怪談

赤く染まる浴室

深夜、築年数の古いアパートの一室に、若い男が越してきたそうです。そこは「事故物件」と呼ばれ、かつて風呂場で女性が亡くなったと噂される部屋でした。最初の異変は、湯船に浸かっていた時のことだといいます。壁のタイルに映る自分の姿が、ふと二重に見え...
【ウラシリ】怪談

影を映す田の板

田んぼに立てられた縦型のソーラーパネルは、昼はただ静かに陽を受けていたそうです。しかし夜になると、黒い板が水面に影を落とし、その影が人の姿のように揺れたといいます……。農作業を終えた者がふと振り返ると、パネルの向きがわずかに変わっていたそう...
【ウラシリ】怪談

白くぼやけた秋ナス

畑の隅で収穫された秋ナスは、どれも白くぼやけていたそうです。紫の艶を失った実は、影だけが濃く残り、並ぶ姿は不気味に沈んでいたといいます……。農家が一つを手に取ると、指の跡が沈み込み、跡はいつまでも消えなかったそうです。翌朝、その跡は人の顔の...