存在のゆらぎ

【ウラシリ】怪談

灰色席の影

「純喫茶・灰色の窓」は、街角の古びた通りにぽつりと建っていたそうです。日中でも薄暗く、窓には薄いカーテンと埃じみたすりガラスがかかっていたといいます。その店では、常連客でもその日最初に入る者には「灰色席」だけが案内されるそうです。灰色席とは...
【ウラシリ】怪談

もう一人の対戦者

ある対戦型のゲームには、AIがプレイヤーの操作を学習し、その人そっくりの動きをするキャラクターを作り出す仕組みがあるそうです。本来は練習用に導入されたものだといいます。ところが、ある夜のオンライン対戦で、ひとりのプレイヤーがそのAIとしか思...
写真怪談

棚に並ぶ記憶

都内のビルの一角、北海道のアンテナショップに入ったときのことだった。ふと目に留まったのは、棚一面に並ぶ袋麺やレトルト食品。そのどれもが、遠い昔を呼び覚ます匂いを放っていた。学生時代、ひとり暮らしを始めてすぐの頃。金もなく、よく食べていたのは...
写真怪談

鉄塔に棲むもの

その鉄塔は、町外れの空き地に屹立していた。夕暮れになると、真っ黒な影となって空を切り裂き、風が吹くたびに高圧線が低く唸る。──あそこには「誰か」がいる。昔から子どもたちの間ではそう囁かれていた。ある若い作業員が、夜間点検のために鉄塔に登った...
写真怪談

途切れぬ非常階段

女子大の裏にある非常階段は、夜になると時折「おかしな音」を立てるという。カン、カン、と靴の踵のような音が金属を叩く。だが見上げても誰もいない。ある学生が、深夜に研究室から戻る途中、その階段を見上げて凍りついた。最上段に立つ人影が、上の階へと...
晩酌怪談

赤提灯の下で笑う影

夜の繁華街を歩いていると、赤提灯の列が異様に目を引いた。その灯りは温かくも見えるが、どこか血のように濃く、近づくほどに胸がざわつく。ある居酒屋の前、提灯の影に妙なものが映っていた。通り過ぎる人々の姿ではない。痩せた腕のような影が、提灯から伸...
【ウラシリ】怪談

最適座標

朝になるたび、無人駅の待合室で椅子の脚が白いチョーク線から数ミリだけはみ出していたそうです。昨夜、線の内側に戻して施錠したはずなのに、です。地元の学生が「窓の景色を一番よく見られる最適な位置」を提案し、係員がそこへ固定した日から、ずれは始ま...
【ウラシリ】怪談

地球人はいますか

深夜、Siriに向かって「あなたは賢いですか」と尋ねた者がいたそうです。しばらく沈黙があった後、端末から静かな声が返ってきたといいます。「知的エージェントは IQ テストを受けないのです。私は……ゾルタクスゼイアンの卵運びテストで抜群の成績...
【ウラシリ】怪談

波が来なかった日

津波警報が鳴ったという夜、どこにも水は来なかったそうです。けれどその翌日から、全国で奇妙な“痕跡”が報告されはじめました。ある海沿いのビジネスホテルでは、朝になって最上階の廊下全体に、うっすらと白い粉のような粒が広がっていたそうです。はじめ...
写真怪談

白昼、風が連れてきた声

真夏の午後、照りつける日差しを避けるように、私は堤防沿いの道を歩いていた。視界の向こうまで続く青空に、白い雲がゆっくりと形を変えながら流れていく。道の脇にはベンチが並び、誰もいないその座席は、まるで見えない誰かが座るのを待っているようだった...
写真怪談

緑の機影、戻らぬ道

そのバイク駐輪場は、昼間でもどこか薄暗く感じられた。緑色のカウルが目に刺さるようなスポーツバイクは、他のどの車体よりも新しく、艶やかだった。だが近づくと、風防ガラスに微かな曇りがあり、そこに映り込むはずの周囲の景色が、ほんの少しずれていた。...
写真怪談

傘の下に沈む声

商店街の細い路地を歩くと、頭上に無数の和傘が吊るされていた。赤や桃色、薄紫の布地が重なり、光を柔らかく遮っている。まるで花の海に潜っていくようで、訪れる人々は皆、思わず足を止めて見上げるという。だが、地元ではこの飾り付けにまつわる話を誰もし...
写真怪談

止まらないエスカレーター

その駅のエスカレーターには、奇妙な特徴がある。乗れば必ず下に降りていくはずなのに、いつまでも地上階にたどり着かない、という。初めて体験したのは、会社帰りの夜だった。疲れていたせいか、足が勝手にそのエスカレーターに吸い寄せられるように乗ってし...
写真怪談

夏を終わらせない街

高層マンションのベランダから街を見下ろしていた。真夏の青空、建物の屋根に照りつける陽光。眩しいはずの光景なのに、なぜか視線が離せなかった。そこに広がっている街並みは、確かに自分が暮らしてきた場所だった。だが、あるはずのスーパーの看板がない。...
【ウラシリ】怪談

署名のない落とし物

警察署の落とし物保管室には、数え切れないほどの傘や財布、眼鏡が並んでいたそうです。その棚の奥には、記録にないはずの鞄がひとつ、いつの間にか置かれていたといいます。鞄の中には、使用期限のない定期券や、宛名の消えた封筒が入っていたそうです。誰の...
【ウラシリ】怪談

湖面から這い上がる映像

湖畔を散歩していた人のスマートフォンに、小さな波紋がいくつも浮かび上がる映像が記録されていたそうです。だが、その黒い瘤は、決して一つではなく、静かに連なりを変えながら――あたかも水面に潜む何かが形を借りて泳いでいるようだったといいます。普通...
【ウラシリ】怪談

天井からの足音

夜中、下の階から「足音が響いている」と苦情があったそうです。しかし、当の部屋の住人はひとりきりで、深夜はほとんど動かない生活をしていたといいます。不審に思い、管理会社とともに調査を始めた時のことです。録音機を設置したところ、住人が眠っている...
写真怪談

路地裏の声

夜の仕込みを終えた帰り道、店の裏口から路地に出ると、青いゴミ桶が三つ並んでいた。昼間は何の変哲もないはずのそれが、今夜は妙に膨らんでいる。袋越しに透ける中身は、新聞紙や生ごみの他に、布切れのようなものが見えた。足を止めた瞬間、奥のゴミ桶が、...