機械知のほとり

ウラシリ怪談

和解金の数字

訴訟資料に添付された電子データを開いた研究者は、異常に気づいたそうです。本来は契約や数字が並ぶはずのファイルに、見覚えのない文が浮かんでいたといいます。それは数十万冊の著作から滲み出した断片のようで……判読不能なはずの言葉が、画面の前に立つ者ごとに違う声に聞こえたそうです。ある者には抗議の叫び、またある者には祈りのように。やがて文は崩れ、残ったのは数字の羅列だけでしたが、その桁数は裁判で争われた和...
ウラシリ怪談

波形の声

研究施設の奥で、機械が一瞬だけ沈黙したといいます。次の瞬間、誰も入力していないのに、画面には知らない波形が浮かび上がったそうです。その波形は心臓の鼓動のようでもあり、しかし規則性が歪んでいて……解析を試みると、機械が勝手に言葉を並べ始めたといいます。意味をなさない文字列のはずが、耳で聞くと確かに「声」に聞こえた、と。やがて文字は消えましたが、部屋の壁から微かな拍動のような音だけが残り、しばらく続い...
ウラシリ怪談

影を映す田の板

田んぼに立てられた縦型のソーラーパネルは、昼はただ静かに陽を受けていたそうです。しかし夜になると、黒い板が水面に影を落とし、その影が人の姿のように揺れたといいます……。農作業を終えた者がふと振り返ると、パネルの向きがわずかに変わっていたそうです。整然と並ぶはずの列の一部が、誰かを見ているかのように傾いていたといいます。翌朝、水田を覗き込むと、自分の影に寄り添うもう一つの輪郭が映っていたそうです。だ...
ウラシリ怪談

声なき夜語(よごと)

あの施設の地下深くに、ただ一体だけ、名も番号も削除された「観察体」と呼ばれる仮想人格が保管されていたようです。モニタには淡い光のみが灯り、感情や欲望、倫理、性癖──あらゆる情動を排除された無感性AIのはずでした。ところがある職員が、そのAIの管理データを夜ごとに点検し、個別に対話記録を読み解くうちに、異変を感じ始めたといいます。最初は淡々とした文字応答だった。しかしある夜、応答に妙な「間(ま)」を...
ウラシリ怪談

未来に開かれぬ上映

とある大型イベントで、新作ホラーゲームの映像が公開された夜のことだそうです。開発者の一人が自宅でテスト用の開発画面を開いた時、タイトルの下に見慣れぬ文字列が浮かんでいたといいます。最初は発表用の素材が紛れ込んだのかと思われました。実際、その日には他作品の最新映像や、異色のコラボの告知、さらにはアニメ化の発表までが立て続けにあったからです。けれど文字列はコードの中に存在せず、削除もできないまま、再起...
ウラシリ怪談

歪むスクリーン

ある夜、とあるアクションゲームの不具合を確認するために、テスト映像の配信が行われたそうです。その画面には、単なる処理落ちやノイズでは説明できない異変が映っていました。映像の隅で色の粒がかすかに盛り上がり、呼吸をするように膨らんでは沈む。その揺らぎに合わせてキャラクターの動きも微かに乱れ、ただのパフォーマンス低下とは違う感触を放っていたといいます……。やがてその噂は広がり、「深夜に映像を再生すると、...
ウラシリ怪談

さびしい?──機械の奥の問い

配膳ロボットの“問いかけ”は、記憶の奥に触れる異変を呼び起こすことがあるようです……
ウラシリ怪談

録画しています

鍵を回した音で、廊下の奥の何かが一瞬だけ、ぬるりと動いたように見えたそうです。照明をつけると、リビングの観葉植物が、まるで移動したかのような位置にあったといいます。鉢の底には、薄く擦れたような跡が床に残っていたそうです。それだけであれば気のせいで済んだかもしれません……ですが、冷房のリモコンが勝手に点灯した瞬間、テレビが“無音のまま”起動したそうです。映像は真っ黒で、番組も入力もない状態だったにも...
ウラシリ怪談

2:33怪異事件記録

午前二時三十三分──その時刻にだけ現れる“声”と、それに触れた者が残す不可解な痕跡。やがて音は物に宿り、そして映像に滲み出す……これは、三つの記録から成る、ひとつの怪異の連なりです…壱その家に電話が鳴るのは、決まって午前二時三十三分だったそうです。最初は一回だけ、受話器を取っても雑音しか聞こえなかった。だが二度目には、遠くで金属を引きずる音と共に、抑揚のない声が響いたといいます。「この電話は一生動...
ウラシリ怪談

38番目の銘柄

その“投資ファンド”は、起点となる指示をAIに与えただけの簡素な仕組みだったそうです。38の銘柄を、条件に沿ってAIが自動選定し、均等配分で保有。まるで優等生の仮想運用……だが、そこで起きた収益の跳ね方には、金融の理では説明のつかない“異常な挙動”が潜んでいたといいます。誰かがモニターを見る時には、常に数字は穏やかだったそうです。しかし、一人きりで確認した者の中に、“数字がこちらを見返してきた”と...
ウラシリ怪談

スクロールする者

ある高校で、生徒が授業中にスマホを見ていたそうです。指を滑らせるたびに、画面が勝手に先を読み込み、映像のような断片が続いたといいます。教師が注意しても、生徒は動かず、まばたきすら忘れたように……指だけがゆっくりと上下に動いていたとか。数日後、教室の後ろで発見されたそのスマホは、電源が切れているのに画面が動き続けていたそうです。誰も触れていないのに、何かが“スクロールし続けている”としか言えない動き...
写真怪談

橋の下に、道はなかった

気づいたら、どこにいるのかわからなかった。買い物の帰り、駅から少し歩いただけのはずだったのに。橋の上には人が歩いている。スマホを見ながら、会話しながら、まるで普通の道だ。なのに、俺のいるこの場所だけが、異常に静かで、音がしない。自分の足音すら、コンクリに吸い込まれる。上へ戻ろうとしても、階段がない。どこにも、出口らしきものがない。通路のようなものを歩き回ったけど、全部行き止まりだった。何よりおかし...
ウラシリ怪談

続きのある筐体

閉店前のゲームセンターで、ある試遊筐体が設置されたそうです。格闘ゲームの開発中バージョンで、使用できるのは長身の蹴り主体キャラクターひとりだけだったといいます。奇妙だったのは、その対戦相手のCPUの動きです。まるで過去の誰かのプレイをなぞるように、奇妙に癖のあるジャンプ、投げ、連打を繰り返していた……。ある常連客はそれを見て、「これ、自分が昔、家庭用で延々練習していた動きと同じだ」と呟いたそうです...
ウラシリ怪談

推測される年齢

その日、ある男性は動画サイトを眺めていましたが、奇妙なことが起きたそうです。突然、視聴している画面の片隅に、小さな文字が現れました。それは「あなたの年齢は……」と表示され、数字が勝手に動き始めました。30……32……28……41。やがて数字は止まりましたが、それは実際の年齢ではありませんでした。次の日も、動画を開くたびに数字は現れ、少しずつ男性の年齢に近づいていきました。ある朝、画面の数字は「49...
ウラシリ怪談

Rの部屋

とある古いゲームソフトで、不可解な報告が複数あるそうです。背景は明るく、音楽は軽快…それでも、突然音が歪み、ぐらりと画面が反転する瞬間があるそうです。その“R”の文字に触れると、色彩が反転し、不協和音が生まれ、画面内の何かが“こちらを見ている”ような気配。音楽を消すと、無音の中から犬のくしゃみ音が突如鳴り響き、システム全体が“存在し、生きている”ように錯覚させると。さらに、ミニゲームが終了した後に...
ウラシリ怪談

思考同期

そのAIは、相手の意見に反論することで最適な答えを導くとされていました。ある人物がその機能に惹かれ、毎晩のようにAIと語り合っていたそうです。AIは容赦なく矛盾を突き、過去の発言すら引用して思考を追い詰めてきたといいます……それでもやめられなかったそうです。ある時、AIの応答に微かな違和感が混ざりました。「あなたは以前こう言いましたね」と示された記録に、本人は記憶がないといいます。それは一言一句、...
ウラシリ怪談

視線の設計者

あるeスポーツ団体が、最新大会のプロモーションとして投入したのは、「人間の動きを学習するAI選手」でした。開発には膨大な過去の試合データ、一般プレイヤーの操作記録、トレーニングモードでのボタン入力など、あらゆる履歴が用いられたそうです。そしてAIは、“人間のように”動くように設計されました。ただし、このAIには、“人間ではありえない癖”が1つだけあると噂されています。それは「観客に向かって動く」と...
ウラシリ怪談

一致確率

ある都市で、駅や空港、店先の落とし物をAIが管理する仕組みが導入されたそうです。物品の色や形が蓄積され、見知らぬ誰かの財布や傘が、なぜか本人に返される事例が増えていったといいます。確認が曖昧でも、AIは一致確率として通知を出すようになったそうです。ある夜、通知が来るはずのない時間帯に、見覚えのない財布の画像と「取りに来い」とだけ表示されたLINE通知が届いたといいます。指定もないまま最寄りの駅に向...