PIXTA

写真怪談

通過人数マイナス1

自動改札のログに表示された「通過人数:−1」。誤作動のはずだったその数字は、十年前からずっと、同じ時間・同じ改札で刻まれ続けていた──。
写真怪談

昼のツリーに吊られているもの

冬の広場に立つクリスマスツリー──真昼の青空の下、その赤い雫形のオーナメントだけは、まだ起きていないはずの「落ちてくる誰か」の姿を映していました。
写真怪談

二つ口のサンタポスト

「左は来年へ、右は届かなかったものが戻る口です」――冗談半分の説明のはずが、亡くなったはずの友人から届いた一枚の年賀状が、その区別の意味をゆっくりと教えてくる。
写真怪談

川面にだけある町

夕焼けに染まる住宅街の川沿いでだけ見える、「もうひとつの町」がある──水面に現れる自分そっくりの影と目が合ったとき、こちら側に残れる保証はどこにもない。
写真怪談

高架下にゆらぐ影

高架が幾重にも重なる川沿いの工事現場で、水面にだけ現れる「作業員」を見てしまった会社員は、自分の立っている場所さえ信じられなくなっていく──。
写真怪談

山門の真ん中を歩くな

秋になると、誰も寺の山門の真ん中をくぐらない――分厚い銀杏の落ち葉の布団の下には、今もひとり分の重さが眠っているからだという。
写真怪談

青い街灯の足跡

残業帰りの冬の夜、あの青白い街灯の下を通るときだけ、どうしてか足もとを見るのが妙に怖い。
写真怪談

水面の境界を釣る人

木のそばにいつも同じ釣り人が立っている──そう気づいた日から、海の上に一本だけ“揺れない線”が見えるようになった。
写真怪談

分解図にない部品

分解図に載っていない部品が、遺影を修整するたび一つずつ増えていく──エアブラシを洗うトレイの上で、消したはずの「誰か」が、ゆっくりと呼吸を始めた。
写真怪談

水平で、下り坂

着陸前の数分だけ、この歩道は「水平のまま下り坂」になる。増える手すり、列に混ざる影、そして灯りが開く白い顔——空港の見学通路で起きる微細な歪みの行き先は、いつもあちら側だ。
写真怪談

対岸の点呼

対岸の窓が人数を数え始めたとき、足元の水が階段になった。最後のひとつにされる前に、私は段を崩した——。
写真怪談

逆さの歩幅

高架下の斜路で、私の足音はいつも一拍遅れて“頭上”を横切る。見上げた継ぎ目の向こうに、逆さの道路が通っていた。
写真怪談

階段の上の鳩

夕暮れのアパートで、鳩はいつも誰かの部屋の前に立っている。 その視線の意味を知るのは、選ばれた者だけだ。
晩酌怪談

赤提灯の下で笑う影

夜の繁華街を歩いていると、赤提灯の列が異様に目を引いた。その灯りは温かくも見えるが、どこか血のように濃く、近づくほどに胸がざわつく。ある居酒屋の前、提灯の影に妙なものが映っていた。通り過ぎる人々の姿ではない。痩せた腕のような影が、提灯から伸び、通りを行く人の背中を撫でる。気づかれた瞬間、その影はすっと引っ込み、再び紙の灯りに吸い込まれていった。奇妙なのは、通りを歩く客の笑い声だった。影に触れられた者は、必ず足を止め、目の焦点が合わないまま笑い出すのだ。その笑いは、酔いではなく、苦しみに似た響きを持っていた。地元の人によれば、この店の赤提灯は昔から替えてもすぐに焼け焦げる跡が出るという。その跡の形は、いつも「手の指」に似ているそうだ。——赤提灯の下で、誰かが笑っている。だがそれは、客でも店員でもない。灯りそのものが、影を使って人をからかっているのだ。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。(c)TRUNK-STUDIO - 画像素材 PIXTA -
写真怪談

夏を終わらせない街

青空の下に広がる街並みは、確かに見覚えのある景色のはずだった──ただし、二十年前に失われたはずの風景を含めて。
写真怪談

片道切符の白昼夢

八月の終わり、蒸し暑い駅構内で私は切符を買おうとしていた。緑色の機械の前に立つと、背後のざわめきが一瞬、すっと消えた。耳鳴りのような静寂の中、液晶画面に映ったのは、目的地の一覧ではなく、見覚えのない「夏の日」という行き先だった。冗談かと思い、もう一度ボタンを押す。だが画面は変わらない。「夏の日──片道切符」ふざけた表示のはずなのに、なぜか胸の奥をつかまれるように惹かれて、私は購入を押してしまった。切符が出てくる音はしなかった。代わりにスピーカーから、蝉の鳴き声が響いた。周囲を振り返ると、改札を行き交う人々の姿がどこにもない。照明に照らされた白い床だけが広がり、真昼の蝉時雨だけが響いていた。ふと気づくと、機械の前に自分と同じ服を着た「誰か」が立っている。背中越しに見えるはずの顔が、こちらを振り返ろうとして──その瞬間、視界が暗転した。気がつくと再び喧騒の駅構内。切符を握る自分の手は空っぽで、さっき見た「夏の日」の行き先も画面にはなかった。ただ、胸ポケットに砂の粒がひとつ入り込んでいて、なぜか湿った潮の匂いが微...
写真怪談

両替機の裏口

深夜の駅構内、人気のないロッカー横に一台の両替機が佇んでいた。旅先で小銭を必要とした青年は、迷わず千円札を差し込む。機械は規則正しく唸り、硬貨が落ちるはずの口から──何も出てこなかった。不審に思いながらも覗き込むと、空洞の奥にもう一枚の札が見えた。拾おうと指を伸ばした瞬間、隙間が吸い込むように広がり、青年は腕ごと引き込まれた。気がつくと彼は、同じ駅構内に立っていた。だが照明は古び、壁に貼られたポスターは何十年も前の日付。通りすがる人々はモノクロの影のようで、誰も彼に気づかない。慌てて両替機を探し、もう一度千円札を差し込むと、今度はきちんと硬貨が出てきた。安堵した青年は硬貨を掴んで振り返る──そこは確かに現代の駅で、先ほどまでの異界は影も形もない。ただ、手にした硬貨はどれも旧硬貨で、すでに使用が終わったはずのものばかりだった。そしてポケットを探ると、残っているはずの千円札が一枚もない。奇妙なことに、両替したはずの硬貨は数日後、どれも忽然と消えていた。まるで現実に存在していなかったかのように。青年は気づく──本...
写真怪談

止まらないエスカレーター

その駅のエスカレーターには、奇妙な特徴がある。乗れば必ず下に降りていくはずなのに、いつまでも地上階にたどり着かない、という。初めて体験したのは、会社帰りの夜だった。疲れていたせいか、足が勝手にそのエスカレーターに吸い寄せられるように乗ってしまった。動き出した段階では確かに「下へ向かっている」と思った。だが、数段降りても景色は変わらない。壁の色も、横にある注意書きも、ずっと同じ場所にあるように見えるのだ。何度か手すりから降りようと身を傾けても、足元は止まることなく階段を滑り続ける。体は確かに動いているのに、空間の方が変化を拒んでいるようだった。恐怖というより、ただ時間の感覚がなくなる不思議さに包まれていた。どれほど経ったのか分からない。ふと気づくと、自分は改札口の前に立っていた。後から思えば、「降りた」という記憶は一切ない。ただ、いつの間にか移動が終わっていたのだ。以来、その駅を使うたびに、あのエスカレーターの前で立ち止まってしまう。次に乗ったら、今度は戻ってこれないのではないか――そんな予感に縛られながら。...