都市の断層

写真怪談

頭上のループ

夕焼けの高架下、音の消えた抜け道で“頭上”がゆっくりと呼吸を始める――。
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高架下にゆらぐ影

高架が幾重にも重なる川沿いの工事現場で、水面にだけ現れる「作業員」を見てしまった会社員は、自分の立っている場所さえ信じられなくなっていく──。
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頭上に残された一段

空で終わる階段の“最後の一段”が、頭の上に降りてくる。足音は一度だけ——そして、何かを忘れる。
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三角の番人

積み上がる三角コーンは、数が揃ったときだけ「通行止め」以外の意味を持つ。夕暮れの詰所の窓で、反射帯が一本、息をしていた。
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逆さの歩幅

高架下の斜路で、私の足音はいつも一拍遅れて“頭上”を横切る。見上げた継ぎ目の向こうに、逆さの道路が通っていた。
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排熱の下で息をするもの

雑居ビルの裏手。昼間はただの退屈な景色──自転車、カラーコーン、並んだ室外機。だが、この場所を深夜に通る人は少ない。なぜなら、室外機から出る温風が「規則的すぎる」からだ。ブォオオ、と吹き出す音と風の間隔が、どの機械もぴたりと揃っている。まるでそこに、ひとつの大きな肺が埋め込まれているかのように。近所の配達員は、それを「ビルが呼吸してる」と笑い話にした。しかしある晩、荷物を置こうと階段下に足を踏み入れたとき、彼は気づいてしまった。室外機のひとつから吐き出される風だけが、ほんのり甘い匂いを帯びていたのだ。嗅ぎ覚えのある匂い──生乾きの洗濯物、正確には、人間の頭髪が濡れたまま放置された時の臭気だった。彼が鼻をしかめた瞬間、風が止まった。すべての室外機が同時に沈黙し、代わりに「吸い込む」ような気圧の変化が周囲に広がる。翌朝、そこには誰かの自転車だけが残されていた。前カゴに、まだ濡れた黒髪が絡みついて。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。
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緑の機影、戻らぬ道

そのバイク駐輪場は、昼間でもどこか薄暗く感じられた。緑色のカウルが目に刺さるようなスポーツバイクは、他のどの車体よりも新しく、艶やかだった。だが近づくと、風防ガラスに微かな曇りがあり、そこに映り込むはずの周囲の景色が、ほんの少しずれていた。覗き込むと、反射の中で歩く人々の顔がすべて見知らぬものになっている。しかも彼らは、こちらをじっと見返していた。次の瞬間、耳元でエンジンのアイドリング音が響き、バイクは誰も乗っていないのにゆっくりと動き出す。緑の機影は駐輪場を抜け、舗道へ、そしてどこかへ消えていった。その行き先を追った者は、例外なく二度と戻らなかったという。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。(c)TRUNK-STUDIO - 画像素材 PIXTA -
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橋の下に、道はなかった

気づいたら、どこにいるのかわからなかった。買い物の帰り、駅から少し歩いただけのはずだったのに。橋の上には人が歩いている。スマホを見ながら、会話しながら、まるで普通の道だ。なのに、俺のいるこの場所だけが、異常に静かで、音がしない。自分の足音すら、コンクリに吸い込まれる。上へ戻ろうとしても、階段がない。どこにも、出口らしきものがない。通路のようなものを歩き回ったけど、全部行き止まりだった。何よりおかしいのは、空が狭い。ビルがせり出しているせいじゃない。空が、収縮しているみたいに、細く、裂け目みたいにしか見えない。壁を叩くと、音が返ってこない。時間もおかしい。2時だったはずの腕時計が、気づけば4時になっている。スマホは圏外。「誰かいませんか!」と叫んでも、上の通路の誰も反応しない。……見えてないのか?そんな時だった。通路の奥に、誰か立っていた。白っぽいスーツ、歪んだような顔。いや、顔が“逆”だった。顎が上で、頭が下に。目が合った。と思った瞬間、また時間が飛んだ。気づいたら、自分の部屋だった。服も荷物もそのままで、...
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鉄骨の声

「なんであんな場所で遊んだのか、未だにわからないんだ」そう語るのは、都内で働く30代の男性・翔太だ。彼は10年前、学生時代の仲間とともに、とある廃墟を探索したという。それは、都市開発が途中で止まった再開発地区の端にぽつんと残っていた、白壁のボロ家だった。塗装は剥がれ、窓には板が打ち付けられていたが、唯一2階に繋がる鉄骨の外階段だけは残っていた。手すりは錆びており、所々にツタが絡まっていた。問題の“異変”は、その階段で起きた。「友人の村上が、調子に乗って2階に登ったんだ。そしたら、急に――階段の金属が鳴いたんだよ」鉄が軋んだ、というレベルではない。「やめて…」と、女の声が、階段から“発せられた”のだ。村上は凍りつき、動けなくなった。だが、誰も助けに行けなかった。次の瞬間、階段がぐにゃりと歪んだ。誰も触っていないのに、勝手に折れ曲がったのだ。村上の足は挟まり、彼は悲鳴を上げた。階段に喰われたように。「その時気づいたんだ。階段の一番上の手すりが、…歯みたいな形してたって」逃げようとしたが、金属の壁が音もなく落ちて...